第241話 静かに燃ゆる怒りの炎
夜のうちに眠り込んでしまった
彼は翌朝、
目的地はもちろんこまるの家である。
『3つ目の角、曲がる』
『了解』
『2つ目、右に行く』
『了解』
そんな感じでRINEのメッセージによる道案内を受けながら、最寄り駅から徒歩15分ほどの場所にある
彼が服装を整えてインターホンを押すよりも早く、玄関の鍵がガチャリと開いてこまるが顔を覗かせた。
「おはよう、こまる」
「おはよ」
軽く挨拶をすると、出迎えなのか彼女はトコトコとこちらへ歩いてきてくれる。
そして何やら上目遣いでこちらを見てくるので、そっと頭に手を伸ばしてみた。
「……いや、騙されませんよ」
しかし、その手は髪に触れる寸前で止まったかと思えば、スっと元の場所へ引っ込んでしまう。
それを見たこまる……いや、マコさんはあからさまにがっかりした表情で頬を膨れさせた。
「唯斗くんのケチ! お母さんだからって、少しくらい撫でてもらってもバチは当たらないもん!」
「ダメですよ。
「お父さんは仕事に行ってるんだもん! 撫でてもらえないんだもん!」
「夜まで我慢しましょうよ」
「……どうしてそんなに拒むの?」
うるうると瞳を潤ませながら、瞳で何かを訴えてくるマコさん。
彼女は唯斗が「いや、だって……」と言いながら背後を指差すと、少し固まってからゆっくりと振り返った。
「お母さん、邪魔」
「あら、マルちゃん。そんなこと言われたらお母さん泣いちゃうよ?」
「私の唯斗、取らないで」
「ふふ、ちょっとからかっただけだよぉ♪」
コロコロと楽しそうに笑い、くるりと背中を向けて家の中へ戻ろうとするマコさん。
だが、明らかに自分の立ち位置を奪おうとしていた母親に怒っているこまるは、彼女のほっぺを掴んで横に引っ張った。
「うぅ、痛いよぉ……」
「自業自得」
「もうしないから許して!」
「だめ。反省、してない」
こうして見るとどこまでもそっくりな二人だが、やはり話始めればその違いは明らかだ。
彼からすれば、こまるの性格が寛さん寄りで良かったと思うところだが。さすがにマコさんが二人は、彼にとって負担が大き過ぎるから。
「唯斗、行こ」
その後、しばらく頬をむにむにとし続けたこまるは、満足したのか唯斗の手を引いて家の中へと戻った。
彼は一応マコさんに向かって「お邪魔します」と声をかけつつ、洗面所に案内してもらって手洗いうがいを済ませる。
「あ、この台懐かしいね」
「私とお母さん、使う」
「僕も昔使ってたよ」
洗面台の横に置かれている踏み台を見ながらそんな会話をすると、彼女は何故かそれを退けてから手を洗おうとした。
だが、身長の関係で少しやりずらそうなので、後ろから持ち上げて高さを合わせてあげる。
「こまるが身長にコンプレックスがあるのは知ってるけど、無理はしなくていいと思うよ」
「でも、背高い方が、かっこいい」
「僕は今のこまるしかしらないから、目の前にいるこまるが一番好きなこまるだけど」
「……そっか」
納得してくれたのかは分からないが、小さく頷いた彼女は台を元の位置に戻した。
例えばの話は唯斗もよくするが、それはマイナスなことだからこそである。こまるの低身長はむしろ彼女の個性で、プラスだとさえ言えるのだ。
「高い高いもできるもんね」
「確かに」
「して欲しかったら言って。5回までなら多分できるから」
「夜の、お楽しみ」
「じゃあ、それまで置いとこっか」
「うん」
もう一度小さく頷いた彼女と少し微笑み合うと、2人は洗面所を出て2階へと向かう。
いつの間にか回復しているマコさんは、キッチンでお茶を準備してくれているらしかった。
「後で持っていくからね!」
「いや、僕が持っていきますよ」
「いいのいいの、お母さんらしいことさせて?」
「……わかりました、お願いしますね」
何かを企んでいるような気がしなくもないけれど、注意するのはこまるの役目っぽいので、唯斗は何も言わずに階段の方へと向かった。
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