第237話 おねだりはしつこさが命
「ぎゃぁぁぁぁぁ!」
そんな声を出して床に倒れ込んだのは、
ボタンを押す手を押さえながら悶え、収まったかと思えば首を傾げながらもう一度押してまた悶える。
それを数回繰り返した後、彼女はリモコンから電気が流れていることをようやく理解した。
「……え、なんで?」
しかし、彼女はこのビリビリグッズを『ボタンを押せばベルトに電気が流れるもの』として持ってきている。
姉に借りる時に確認したから間違いない。そう唯斗に伝えたところ、返ってきたのは呆れたような顔だった。
「
「え、なんで?」
「その聞き方イラッとするからやめて」
「え、なんで?」
「……ああ、嫌い」
心底不機嫌そうに呟いた彼は、ベッドにうつ伏せで倒れる。それをビリビリチャンスとばかりにボタンを押した夕奈は、また自爆してしばらく悶える。
ニワトリは3歩歩けば忘れるとはよく言うが、夕奈は歩かなくてもすぐに忘れるおバカなのだ。
「くっ、こやつやりおる……」
「まだ何もしてないよ」
「まさか、覇気の使い手?!」
「全部自爆でしょ」
「いや、相手に不幸をもたらす体質の持ち主か!」
「いい加減にしてよ」
これ以上騒がれては面倒なので、とりあえず枕で後頭部を叩いて静かにさせる。
一瞬、辞書で殴ろうかとも思ったけれど、重いのを持ち上げるのが面倒だったからやめておいた。
あと、最近辞書の角に頭をぶつけて亡くなった人のニュースも見たし。夕奈のために犯罪に手を染めるほど馬鹿らしいことは無いね。
「ていうか、そもそもどうしてこんなもの持ってきてるの? お題の内容を知ってたとしか思えないんだけど」
「も、黙秘権を発動する!」
「ええ、可愛い声が聞けないなんて残念だよ(棒)」
「そこまで言うなら話しちゃおっかなー♪」
調子に乗った彼女によると、昨晩のうちに
あくまで夕奈は協力者という立場なため、そういう事前の話をするのはルール違反ではないものの、唯斗としては少し納得がいかなかった。
「まあ、天音がしたことなら文句はないよ」
「ゆ、許してくれるんすか?」
「許すも何も、僕はダメージ受けてないし」
「ぐぬぬ……」
「夕奈は陽葵さんに騙されて、自爆するように仕向けられたんだよ。おもちゃにされてるんだね」
「ち、ちゃうし! これまでは余興やもん!」
「なら、今から僕にもビリビリさせるんだ?」
「もちのろんや!」
そう言ってリモコンを差し出してくる彼女に、僕は代わりに机の上に置いていたタイマーを渡してあげる。
その直後、30分が経過したことを知らせるアラームが鳴り響き、夕奈は絶望したように膝から崩れ落ちた。
「い、いやだぁぁぁぁぁ!」
まるでデスゲームで序盤は怖がってばかりいたのに、途中から『殺らなきゃ殺られる!』なんて言い始めるタイプの雑魚キャラの死に際のような叫び声をあげる彼女。
その様子は実に滑稽ではあるが、悲しんでいるのは本当のようで、静かになったかと思えば嗚咽を漏らし始めた。
「いや、泣くほどのこと?」
「だって……せっかく準備してきたのに……」
「そんなに僕にビリビリしたかったの?」
「やりだい!」
「そんなどこぞの海賊マンガみたいに言われても」
そう言う唯斗は拒否の姿勢を見せてはいるものの、やはり涙を見せられることには弱い。
その心の隙をつくように、夕奈はリモコンを差し出して上目遣いで見つめてきた。
「少しでいいからぁ……」
「僕になんのメリットがあるの」
「夕奈ちゃんの脱ぎたてのパンツをプレゼント」
「燃えるゴミを貰っても困る」
「日本の宝やろがい!」
「パンツが国宝の国なんて国連追放されるよ」
冷たくあしらわれるところから学んだのか、夕奈は『おねだりし続ける作戦』に切替える。鬱陶しいのが嫌いな唯斗には大ダメージの攻めだ。
「おねがいおねがいおねがいおねがい!」
「しつこいと嫌いになるよ?」
「何でもするから、おねがいおねがい!」
「なんでもって言った?」
「言ってない。けど、おねがいおねがい!」
「……はぁ」
結局、彼は根負けしてリモコンを握ってあげることにするのであった。しつこさの勝利である。
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