隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第235話 諦めないことは、敗北からの逃げか勝利の追求か
第235話 諦めないことは、敗北からの逃げか勝利の追求か
「まだ続けるつもり?」
「ざ、残機はある……!」
「やめた方がいいと思うけど」
15分後、
何だかこの光景、最近見たような気がする。
「シャツを剥がれても、まだ下着があるわ!」
「すごいメンタルだね。僕なんてまだ靴下しか脱いでないのに」
「夕奈ちゃんは奇跡を信じる!」
注意だけはしてあげたものの、それでも諦めることを知らない彼女は拳を振り始めた。
本人がいいと言うのならばと、唯斗も仕方なく合図に合わせて『パー』を差し出してあげる。
同時に向かい側から出てきたのは、紛うことなき敗北の『グー』。要するに、夕奈終了のお知らせだ。
「奇跡は起きなかったね」
「ぐぬぬ……まだ勝負は終わっとらん!」
野球拳で生計を立てているのかと言うほどの執着に、彼は思わず引いた目を向けてしまう。
だが、夕奈が意を決したようにTシャツを脱ごうとすると、慌ててその手を掴んでやめさせた。
「本当にしなくていいから」
「でも、勝負だから……」
「やるなら脱いだことにして続けて。夕奈の裸なんて見ても楽しくないし」
「誰が魅力皆無女や!」
「そんなこと言ってないでしょ。むしろ、魅力がないならわざわざ止めたりしないよ」
そう言いながら掴む手に力を込めると、気持ちを察してくれたのか彼女も脱ぐのを諦めてくれる。
普段は馬鹿なことしかしないくせに、こういう時だけ真面目を発揮するところが厄介なのだ。真面目と不真面目のバランスを何とかして欲しいね。
唯斗は心の中でそう呟きつつ、際どい太ももに視線が吸われそうになるのでタオルケットを膝にかけてあげた。
「唯斗君、優しいね」
「クラスメイトの裸なんて見た日には、寝つきが最高に悪くなるだろうからね」
「興奮しちゃって?」
「いや、気分が悪くて」
「……そっかそっか」
夕奈は少し俯きながら小さく頷いた後、タオルケットをギュッと握りしめて短いため息をつく。
何か不満でもあったのかと「別に夕奈だからってわけじゃ……」と言いかけると、彼女は「わかってる、ありがと」と微笑んで見せた。
「唯斗君は優しいから、罪悪感を引きずるんだよね」
「まあ、そんなところかな」
「じゃあ、もし突然現れた女の人が脱ぎ始めたら?」
「そんなことありえないでしょ」
「世の中には変な人が多いかんね」
「確かに」
「……どうして私を見るの?」
「いや、別に」
変な人の代表格が目の前にいると思ったことは心の内だけに留め、夕奈に言われたシチュエーションを想像してみる。
突然現れた女性が声をかけてきて、何かと思って振り返ると露出狂だったという展開。考えるだけでなかなかにカオスな世界だ。
「相手が露出狂なら罪悪感はないかな」
「それは相手が好きでやってるから?」
「うん。それなら僕も気兼ねなく見れるし」
「……え?」
「冗談だよ。さすがに怖くて逃げる」
「だ、だよね!」
そういうことに興味が無い訳では無いが、それはあくまで安心して見られる画面の向こう側の世界であることが前提の話。
現実で本物の変態を前にして、理性を投げ捨てた獣に成り果てる覚悟も勇気も唯斗には無かった。
「で、どうしてそんなこと聞いたの? まさかとは思うけど……」
「あれ、なんか怪しまれてる?」
「夕奈、今ならまだ引き返せるよ」
「何もしてないかんね?!」
「そう言えば、3日前の深夜にノーパン散歩してた女子高生が補導されたってネットニュースに……」
「いやいや、ちゃうちゃう! 夕奈ちゃんは健&全だし、歩く全年齢対象なんだし!」
「え、恋愛対象広すぎない?」
「いや、そういう意味の全年齢やないわ!」
下は5歳児、上は60歳なんてストライクゾーンの広いタイプかと思ったけれど、彼女のタイプは同い年で席が隣の男の子らしい。
随分と立候補資格に厳しい夕奈に、「高望みすると婚期逃すよ」と教えてあげたら、「気付けやあほ」と叩かれてしまった。理不尽にも程があるよ。
「あ、偶然にも僕には資格があるのか」
「ふっ、それは本当に偶然かな?」
「ごめん、僕ジャンケン強い女の子が好きなんだ」
「高望みしてるのどっちかな?! ていうか、絶対に取って付けたよね?」
「ジャンケンさえ強ければ、大好きになれたんだけどなぁ」
「なっ?! そんなこと言われたら―――――――」
その後、焚き付けられた夕奈が思惑通りジャンケンを始め、あっさり2連敗して野球拳が終わりを迎えたことは言うまでもない。
「脱がずに済むだけ感謝してよ」
「いや、むしろ脱いだ方が負け感を……」
「やっぱり変態じゃん」
「……夕奈ちゃん、そうなのかもしれない」
割と本気で考え込み始めた彼女の、「でも、見せたい相手は唯斗君だけだから!」という言葉のせいで、しばらくなんとも言えない沈黙が流れることとなった。
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