第234話 最終日こそチャレンジが大事

 水曜日、木曜日と順調に天音あまねのお題をこなし、ついに訪れた最終である金曜日。

 中には『10分間後ろから抱きしめる』だとか、『寝る前に30分間RINE通話をする』なんてものもあったものの、2人はできることを両日ともコツコツと積み重ね――――――――――――――。


「残り18ユーナか」

「これなら楽勝じゃない?」


 余裕を持ったユーナ数まで減らすことに成功していた。あとは簡単なのをいくつか選んでやれば、それだけで天音への返済は完了する。


「今日のお題はどんなの?」

「そう言えば、まだ確認してなかった」


 先程天音から手渡された紙に目を落としてみると、どうやら今日は0.5ユーナや1ユーナのお題はないらしかった。考えるのに飽きたのかな。

 ただ、合計は特別に70ユーナ分もあるので、大きなお題から選べば何の問題もない。


「って……ん?」


 お題の内容を見終える前に、一番下に赤色で書かれた『※』に視線を吸われた。

 その横には『100ユーナ溜めたら最終試験に挑戦!』と書いてあるではないか。もちろん、そんな話は初耳だ。


「最終試験なんて聞いてないよ」

「きっと簡単な内容だよ」

「試験苦手なのによくそんなこと言えるね」

「ふっ、試験とは理解し合えないだけさ」

「理解できないのは夕奈ゆうなの頭の中だよ」

「あー、傷ついた! もう手伝わないもんね」

「人間として最低だね」

唯斗ゆいと君には言われたくないよ!」


 そんなことを言いながらも、何だかんだ手伝う気満々な彼女に少しばかりの感謝を伝えつつ、2人で何をするか話し合い始める。


「ねえ、『30分間夕奈の言いなり』ってあるよ?」

「僕がそれを選ぶと思う?」

「10ユーナだし、やる価値はあるっしょ!」

「それなら他のを2つやるね」

「え、『腹踊り』と『モノマネ100連発』はやめた方がいいと思うけど……」

「……確かに」


 腹踊りなんてやった事はないものの、やってみたいなんて好奇心は微塵も湧かなかった。

 モノマネだってレパートリーは3つくらいしかないし、きっと地獄が待っているに決まっている。


「他のお題は?」

「『夕奈に30分間踏まれる』とか、『夕奈の脇を30分間眺める』とかしかないね」

「天音は随分と30分が気に入ったらしい」

「そういう年頃、私にもあったなー」

「いや、無いでしょ」


 あったとしても、懐かしむようなものですらないだろう。唯斗は心の中でそう呟きつつ、他のお題もしっかり確認してみた。

 しかし、『夕奈の指を舐める』だとか、『どちらかが全裸になるまで野球拳』だとか、とてもじゃないが容易に手を出せそうにないものばかり。


「やっぱり言いなりかにゃ?」

「それしかないかもね」


 ここに書かれているお題には、ほぼ10ユーナのものしかない。5ユーナのものもあるが、『腹踊り』と『モノマネ100連発』だけ。

 つまり、10ユーナを2つこなすか、5ユーナを2つと10ユーナを1つこなすパターンの二択になるのだが、後者は選択することも眼中に無いのである。


「もうひとつは野球拳にしようかな」

「そんなに夕奈ちゃんの裸が見たいのー?」

「いや、勝ってる方が目を閉じれば問題ないなって」

「ものすごく合理的だね?!」

「でも、それだと夕奈が結果誤魔化すか」

「私が負ける前提で話さないでもらえる?」

「僕が負ける未来が見えない」

「ぐぬぬ……私だって給食のプリンジャンケンで一人勝ちしたことあるもんねーだ!」

「僕はそれを子供だなって思いながら見てたタイプ」

「お、大人だ……」


 一度は膝をついて項垂れた夕奈だが、やはりお得意のしつこさを発揮して噛み付いてくる。

 今度は離したりはしない。逃がさないという意思の込められた、唯斗にとってものすごく厄介なやつだ。


「なら、野球拳で勝負! 負けたら私の貯めてたお小遣い全部くれてやんよ!」

「枕カバー買いたいと思ってたんだよ、これはちょうどいいね」

「ふん! 今は調子に乗っていればいいさ!」

「僕が負けたら、この部屋にある好きなものをひとつあげるよ。勉強に関するもの以外なら、何を選んでも文句は言わないから」

「……二言はないな?」

「もちろん」


 唯斗が頷くのを確認した夕奈は、小さくガッツポーズをしてからにんまりと笑い、まるで価値を確信したような顔で胸を張るのだった。


「ふふ、唯斗君のハートを奪っちゃうぜぇ!」

「ごめん、それは本当に無理……」

「ガチトーンで言わないで?!」

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