隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第209話 外で友達に会うと挨拶するかどうか悩みがち
第209話 外で友達に会うと挨拶するかどうか悩みがち
そんな時、店員さんの「いらっしゃいませ!」という声と共に入店してきた人物を見て、彼は思わず目を見開く。
「何をお探しですか?」
「あ、いえ、見に来ただけなので……」
「では、何かあればいつでもお声掛けください」
「は、はい! ありがとうございます」
「本当にたくさんある……」
彼女はそんな独り言を呟きながら、棚に並ぶコスプレを見ていく。
そしてドラキュラの衣装の前で立ち止まると、顎に手を当ててじっと観察してからウンウンと頷き始めた。
「これ、ゆーくんに似合いそう」
この言葉には、さすがの唯斗も心臓が飛び跳ねた。まさかミニスカポリスの格好をして座っているのが、そのゆーくんであるとは夢にも思っていないのだろう。
「はぁ、ハロウィンかぁ……」
「……」
「中学生の私はこんなの着てたのかな」
「……」
「ゆーくんと一緒に過ごしてたりしたのかな」
やたらと零れる独り言が、いちいち唯斗の胸にグサグサと刺さってくる。
だって彼は覚えているから。晴香が恥ずかしいと言って、自分だけにこっそり仮装姿を見せてくれたことを。
「そうだとしたら今年も一緒に……」
そこまで呟いて「って、無理か」と諦めてしまった彼女に、唯斗が思わず声をかけようとした瞬間、試着室から出てきた夕奈が突然カメラを連射してきた。
「いいねぇ、唯斗君可愛いよー♪」
「ちょ、夕奈?!」
聞き覚えのある名前に、晴香が反射的にこちらを振り返ってしまう。
現状を理解していない夕奈はこちらへ歩み寄ってくる彼女を見つけると、にっこりと微笑みながら手を振った。
「晴香ちゃん、奇遇だね」
「
ぺこりとお辞儀をした晴香は、不思議そうに周りを見回しながら「ゆーくんのことを呼びませんでした?」と首を傾げる。
「呼んだよ、だって目の前―――――――っ?!」
目の前にいる。そう言いかけて、夕奈は上げかけていた腕を慌てて下ろした。
ようやく気がついてくれたのだろう、ミニスカポリスの件は2人だけの秘密という約束だったことを。
「目の前がどうかしたんですか?」
「め、目の前じゃなくて……目の上のたんこぶって言おうとしたの!」
「たんこぶですか?」
「唯斗君、私の邪魔ばっかりしてくるからさ」
「仲は良さそうに見えましたけど……」
「ないない、唯斗君かまちょだもん」
何故か思いっきり罵られている唯斗が『それはお前やろがい』という気持ちを込めて睨むと、目が合った夕奈は申し訳なさそうに手を合わせる。
本心から言っている訳ではなく、あくまで誤魔化すために出た嘘ということなのだろう。そういうことならばと、仕方なく許してあげることにした。
「そう言えば、晴香ちゃんは何しにここに来たの?」
「私、ありがたいことにお友達からハロウィンにパーティをしないかと誘われたんです」
「それで仮装を買いに?」
「いえ、お誘いを断ってしまって……」
「え、どして?」
「……ゆーくんと過ごしたいんです。そうすれば何か思い出せる気がして……」
晴香の言葉に、胸がキュッと痛んだ2人は自然と目を合わせる。夕奈は待っているのだ、唯斗が誘っていいと言ってくれるのを。
ならば恥なんて捨てよう。晴香がこうして心の内を打ち明けているのだから、コソコソ隠れているなんて卑怯だろう。
「でも、無理ですよね。きっともう予定が入っちゃってますし、私との時間を取る余裕なんて……」
「僕が暇じゃないように見える?」
「っ……ど、どちら様……ってゆーくん?!」
唯斗はこちらを見上げながら驚く晴香に微笑みかけると、先程まで不安そうに影かかっていた目元を指で拭ってあげた。
「ハルちゃんが望むなら、僕はちゃんと時間を取るよ。夕奈たちと一緒でいいならにはなるけどね」
「同じ場所にいれるだけでいいんです!」
「それなら決まりだね。瑞希たちにも人が増えるって連絡しておかないと」
「ほ、本当にいいんですか?」
「断る理由がない」
そういうわけで、ハロウィンパーティへの参加人数が一人増えたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます