第207話 コスプレは色々するから楽しい
「どう?」
「んー、悪くないけど
「そういう夕奈は……まあ、似合ってるね」
「でしょー?」
唯斗が初めに試着したのは狼男の仮装だ。体が細くて筋肉のきの字もない唯斗では、ただただ毛の濃い弱そうな人間にしか見えないのである。
それに対して魔女の衣装を見に纏った夕奈は、どちらかと言うと魔法少女感を出してはいるものの着こなしていた。
「顔がいいと何でも似合っちゃって困るなー♪」
「さすが、中身まで腹黒魔女になり切ってるね」
「うっ……ま、まあね!」
何故かダメージを受けている夕奈が試着室へ引っ込み、唯斗もカーテンを閉めて次の衣装に着替え始める。
数分後、お互いにカーテンを開けて確認し合うと、『まあ、悪くないね』と言った感じで頷き合った。
「唯斗君、やっぱりドラキュラは似合うね」
「夕奈こそ、メレンゲの仮装もいいと思う」
「いや、これオバケなんですけど?!」
「……え?」
「こっちのセリフだかんね?」
白い布を被って穴から顔だけを出している夕奈は、唯斗からすればどこからどう見てもメレンゲの妖怪。
しかし、確かに商品名にはオバケ(可愛いver.)と書かれてある。言われてみればそう見えなくもないね。あと、生クリームの妖怪にも。
「似合ってるけど、さすがに布1枚は手抜きだと思われそうだよね」
「た、確かに……」
「僕はさっきの魔女の方が好きかな」
「じゃあ、暫定1位は魔女ね。次行こ!」
「僕はもうこれでいいんだけど」
「だとしても他のも見たいじゃん!」
「夕奈のために着替えるの面倒臭い」
その言葉に不満そうに目を細めた彼女が、「なら夕奈ちゃんが脱がしてやんよ!」と試着室に押し入ってきたので、デコピンをして鎮めてあげた。
「いてて……って、何これ」
しかし、ここで問題が発生した。先程、店員に無理やり渡された仮装衣装を夕奈に見られてしまったのである。
普通のならまだ良かったのだが……急いで渡しに来たから取り違えてしまったのか、どう見ても女性用のコスプレなのだ。
「へえ、唯斗君……目覚めちゃった?」
「違うよ、店員さんが押し付けてきたの」
「またまた〜♪ You、正直に言っちゃいなよ!」
「正直の塊なんだけどね」
こうなった夕奈は、もう往復ビンタを5連続くらいしなければ止められない。
公共の場で女の子にビンタをするのは気が引けるので、やるとすれば後で物陰に連れ込んでぺちぺちするつもりだが、現状この場では為す術がなかった。
「夕奈、僕はこれでも男だよ。こういうのは着ない」
「文化祭では女装してくれたのに!」
「あれはするしか無かったからね」
「うぅ……2人だけの秘密にするから、ね?」
オバケの格好のまま、「いいでしょ? ねぇねぇ?」と抱きついて揺らしてくる彼女。
感触からして、おそらくこの白い布1枚の下に服は着ていない。コスプレをするからと下着以外は全部脱いでしまったのだろう。
いくら唯斗でも、これはまずい状況だった。だって、『男子高校生、試着室でわいせつ行為』なんて噂が広まってしまったら、
「わかった、わかったから離れて」
「らじゃ!」
「本当に2人だけの秘密だよ?」
「口だけは固いから安心してくれたまえ」
「頭も固いけどね」
「あー、夕奈ちゃん言いふらしちゃうかもしれない」
「なら着てあげない」
そう冷たくあしらうと、夕奈はブンブンと首を横に振ってから『お口チャック』とジェスチャーで示してくれた。
まあ、たとえ広まったところで興味を持つ人なんてほとんど居ないだろうし、
そう心の中で納得して、「着替えるから待ってて」と彼女には試着室から出てもらってカーテンを閉める。
「これを着るのか……」
『唯斗君、ウィッグも借りてきたよ!』
「……そこまでする?」
『やるなら何事も全力!』
そう言ってカーテンの隙間から手渡されるブロンドヘアーのウィッグ。
確かに男の髪のままこのコスプレは、余計に違和感が出過ぎてしまうかもしれない。
なるべく違和感を減らして記憶から早く消してもらうためには、着ける方が得策かもね。
「……わかった、着けるよ」
カーテンの向こう側にいるであろう夕奈に向かってそう宣言した唯斗は、ミニスカポリスのコスプレを眺めながら深いため息をつくのであった。
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