第206話 仮装は無難が一番楽だったりする
ご飯を食べ終えた後、2人はようやく本来の目的地であるコスプレグッズ専門店へと足を運んだ。
時期も時期だからか、店頭に並ぶマネキンたちはみんなハロウィンの仮装をしている。
さすがコスプレ一本で営業しているだけのことはあるなぁと、店の戦略についつい感心してしまった。
「唯斗君って仮装はしたことある?」
「幼稚園の時にさせられた」
「何の格好をしたの?」
「左腕をゾンビに食べられた人間」
「うん、幼稚園児がやる仮装じゃないね」
当時のことを思い返しながら「腕を服の中に隠しただけだよ」と言ったら、「今年はもう少し頑張ろうね」と肩を叩かれた。
なんだか同情しているような顔にイラッとしたので、三匹の子豚の長男豚の仮装を指差しながら「夕奈に似合いそう」と言ったら「ブーブー……って誰が豚や!」と追加で3回ほど叩かれた。
「ちなみに、仮装の内容は母さんが決めた」
「……確かにあのお母さんなら選びそうだね」
「人の母親を悪くいうのは良くないよ」
「いや、誘導したよね? ていうか、悪く言ってないし!」
「言ったよ、豚が似合いそうだって……」
「それは唯斗君だなぁ?!」
そんな彼女のツッコミを『最近カ〇ナリ式ツッコミが多いね』なんて思いつつ聞き流し、唯斗は店の奥へと移動する。
そこで待ち構えていた店員の「何かお探しですか?」を上手く回避し、それでも粘り強く付いて来られることに困っていたところで、追いついた夕奈が何かを囁いて追い払ってくれた。
「助かった、礼は言わないけど」
「その言葉をお礼として受け取っておこう」
「ところで、さっき何を言ったの?」
「『恋人同士の時間を邪魔されたくないんですよ』ってね♪」
「確かにアミちゃんとの時間は邪魔されたくない」
「……それ、2次元だよね?」
アミちゃんとは、彼が最近始めたスマホゲームのキャラクターである。
もちろん唯斗は2次と3次の区別はつけられる人間なので、冗談に対してここまで本気で嫌な顔をされると少しは傷つく。
「ていうか、アミちゃんって操作解説担当じゃ?」
「最初の5分くらいしか登場してくれなかった」
「すんごいマイナーなところ突くね」
「みんな違ってみんないい」
彼はそんなことを言いつつ、ハロウィンの定番として飾られている仮装衣装を見上げた。
左からゾンビ、ドラキュラ、ミイラ男である。唯斗からすればどれでもいいなという感じで、自分ではこれと決められない。
「夕奈はどれがいいと思う?」
「オススメはドラキュラかな。唯斗君色白いし、背も高いから似合いそう」
「じゃあゾンビにしよ」
「私の話聞いてた?!」
「聞いた上で違うのにしようと思ってた」
「酷い……酷いよ唯斗君!」
彼女の言いなりになるのも尺なのでゾンビを選んでみたものの、良く考えれば幼稚園の時にやったのと似ている気がしなくもない。
というか、左腕を噛まれて感染した結果、大人になったゾンビが誕生しましたというストーリーになってしまうでは無いか。
「でも、ミイラ男ってのもね……」
なんだか、トイレットペーパーでぐるぐる巻きにされているようにしか見えない。
小学生の頃にこれをやったら、次の日からあだ名が『トイレマン』になること間違いなしだ。
「悩むなら試着してみれば?」
「それもいいね。いくつか着てみようかな」
「夕奈ちゃんも着るから、お互いに確認しようよ」
「……夕奈の精神持つかな」
「いや、
仕方ないので「できる限り褒める」と約束してあげたら、夕奈は「安心して、可愛すぎて褒め言葉しか出てこないから」と自信に満ち溢れた表情で5着ほど抱えて試着室へ入っていく。
唯斗もいくつか手に取り、そこへ夕奈が居なくなったのをいいことに駆け寄ってきた店員に押し付けられた一着も合わせてカーテンの向こうへと消える。
「……なんか変なの」
とりあえず着てみたはいいものの、さすがにおかしかったかな……江〇2:50のコスプレは。
というか、そもそもこれってコスプレなのかな。上半身何も着てないから、街を練り歩くことも出来ないし。
さすがにこの格好で夕奈の前に立つ訳には行かないので、綺麗に畳んで横へ除けておいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます