第202話 危機察知能力って大事だよね
数日が経って、10月中旬を過ぎた頃。
その理由は、制服の衣替えをしたからである。今日から完全に全校生徒が冬服を着用しなければならないのだ。
まあ、約一名……いや、二名ほど忘れたものがいるみたいだけど。
「
「おおっ、なんか違和感あると思ったら!」
「もっと早く気付きなよ〜♪」
一人目は夕奈。こちらは特に気にしている様子はなく、明日からちゃんとやればいいだろうくらいにしか思っていないらしい。
そして問題の二人目は……
「うぅ……間違えましたぁ……」
「昨晩、わざわざメッセージで教えてやったのにな」
「うっかりしてたんです、ごめんなさい……」
「そんな落ち込むなって、怒られやしないだろ」
周りと違うということに不安を隠しきれない花音を見兼ねた
この学校では夏服も冬服も女子はリボン、男子はネクタイを着けるため、袖の長ささえ隠せばバレることはないのだ。
「でも、これだと瑞希ちゃんが寒く……」
「私がこの程度で寒がるように見えるか?」
「み、見えないです」
「だろ? むしろ椅子に掛けてると床に摩って汚れるだろ。花音に着てもらってる方がいいんだ」
「……ありがとうです!」
嬉しそうに微笑む花音と、優しく頭を撫でてあげる瑞希。身長差のせいで少しぶかぶかだが、ブレザーは大抵そういうものなので問題ないだろう。
唯斗は朝からいいものを見せてもらったなぁなんて思いつつ、少し冷える指先に「はぁ」と息を吐いた。
十分に温めてからもう少し寝ようと再度机に突っ伏すと同時に、夕奈の声が耳に入ってくる。
「そう言えば、そろそろハロウィンだよね」
「言われてみればそうだな」
「忘れてたよ〜♪」
「それな」
ハロウィンと言えば、仮装して街へ繰り出したり、近所の家に『お菓子くれないとイタズラすんぞおら』と脅迫紛いのことをする野蛮な風習だ。
本来、10月31日はケルト人にとっての大晦日。つまり、日本で言うお盆のように霊が帰ってくる日ということになる。
ケルト人はそれを悪霊であると考えており、お化けや悪魔の格好をすることで悪霊の仲間に扮し、襲われないようにしていたのが始まりだ。
唯斗からすれば、そんな日にねじ曲げられた風習を信じ込み、面白がってお菓子をねだりに行くなんて無礼だ……というのは建前で、単に騒いでいる連中が嫌いなだけである。
「ハロウィンパーティー、今年もやる?」
「今から準備間に合うか?」
「飾り付けは去年のを置いてるから大丈夫!」
「なら、あとはケーキとお菓子だね〜♪」
「つくる?」
「去年は夕奈に作らせて大変なことになったからな」
瑞希の「夕奈は飾り担当にして、他のみんなで作るか」という言葉に、ハブられた本人は「異議あり!」と手を上げるが、普通に全員から無視されて落ち込んでいた。
「あ、夕奈ちゃんお菓子作りできる人知ってるよ!」
「……おいおい、察しはつくが断られるだろ」
「引きずり回してでも来るって言わせるし」
「もう少し優しく説得してやれ」
「じゃあ、来るって言うまでお願いし続ける」
「あいつにはそれでも効果抜群だろうな……」
苦笑いする瑞希にくるりと背中を向け、夕奈は自信満々な表情で唯斗のいるであろう方向を向く。
しかし、会話の内容から危機を察していた彼は、既に教室から逃げ出そうとしているところだった。
「あ、ちょ、唯斗君?!」
名前を呼ばれるが早いか、すぐに扉を開けて外へと飛び出した唯斗。しかし、しつこい彼女が放っておくわけがない。
こうして、唯斗にとって勝ち目のほとんどない逃走劇が始まったのだった。
「待てぇぇぇぇぇぇ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます