第195話 腹痛って痛みの強さに関係なく辛いよね
翌日、
彼女が昨日食べたアイスクリームのせいでお腹を壊し、学校を休んだので宿題を届けに来たのだ。
「唯斗くんが来てくれたなら、あの子もきっとすぐに元気になっちゃうね」
すると、何やら中からドタドタと駆け回るような音が聞こえてから、ベッドの軋む音と「ど、どうぞ!」という声が返ってきた。
「失礼します」
「こんちゃ」
疑問はあるがとりあえず部屋に入らせてもらい、陽葵さんから受けとった温かいお茶を夕奈に手渡す。
しかし、額に汗をかいている彼女はそれに口は付けず、礼だけを言って机に置いてしまった。
「随分と暑そうだね。何やってたの?」
「べ、別に何もしてないですわよ?」
「口調がおかしい。隠し事してる時のサインだよ」
「それな」
唯斗とこまるが疑いの目でじっと見つめ続けると、10秒もしないうちに夕奈は「話せばええんやろ?! 教えたるわぃ!」と布団の中に隠していたものを差し出す。
「……僕の写真?」
それはいつぞやの風呂上がりの写真。
以前に妹の望みを叶えるために夕奈の写真を現像したことはあるが、今度はどうして彼女が自分の写真を……?
「ほ、ほら、病気の時って人肌恋しくなるやん?」
「まあ、そうかもね」
「それ持ってたら、少しはマシになるかも……みたいな? ふ、深い意味は無いんだけど!」
「ダンボールって意外と温かいらしいよ?」
「誰が路地裏のホームレスやねん! てか、体にかけるための写真じゃないかんね?!」
夕奈は「布団に短し、タオルケットにも短しだよ」なんて訳の分からないことを言った後、写真を奪い取ってボタンを開けたパジャマの中へと放り込む。
「あー、写真の中の僕が苦しんでる」
「幸せすぎて?」
「汗の匂いがきつくて」
「そんなに臭ってる?!」
「いや別に」
「冗談がキツすぎやすぜ、唯斗の旦那ぁ」
「痛い、腕が折れる……」
ニコニコしながら夕奈に技をかけられて肩を痛めたところで、同時にお腹の調子が深刻な訳では無いのだと少し安心した。
「そうそう、宿題を渡すんだった」
「っ……ト、トツゼンオナカガ……」
「夕奈、大丈夫?! 今すぐ助けるよ!」
「え、あ、ちょ……」
「こまるも手伝って」
「らじゃ」
その後、心臓マッサージと称して2人から腹部をそこそこの力で押されまくった夕奈は、「ぐふっ、うへっ?!」ともがき苦しんだ後、
「人生で初めて宿題という言葉に命を救われた気がするよ……」
「よかったね、宿題があって」
「唯斗君が言うなや」
「こまる医師、まだ完治してないみたいですね」
「再手術」
「も、もう勘弁してくだせぇ……」
その後、しばらくこまるに追いかけ回された彼女は、激しい運動のせいか再度腹痛を起こしてしまい、30分間ほどトイレから呻き声が聞こえ続けることになる。
「夕奈ちゃん、お姉ちゃん漏れちゃうよ!」
「待って、今一番苦しい時間だから……」
「も、もう我慢できない! こんな時のためにトイレの合鍵も作っておいてよかった!」
「え、ちょ、お姉ちゃ―――――――――」
ガチャッと扉の閉まる音の後に、ものすごい叫び声が聞こえてきたけど、あの中では一体何が行われているのだろう。
そんな唯斗の疑問が解消されることは無く、「あ、危なかったぜ……」とお腹をさすりながら戻ってきた夕奈に聞いても、口を噤んで何も答えてくれなかった。
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