第193話 テスト前日は徹夜に限る
テスト前日の夜中、朝から
「お待たせ」
「すみません、泊まらせてもらう身なのに……」
「まあまあ、くつろいでくれたまえよ!」
「それ、夕奈のセリフじゃないよね?」
彼以外でこの場にいるのは夕奈、
元々は夕奈が初日の社会科の内容を何も覚えていないことが発覚し、瑞希にスイーツバイキングを奢ってもらう代わりに徹夜で教えることにしたのだ。
そこで帰ろうとしていたこまるが「自分も、泊まる」と言い出し、晴香も「面白そうですね!」と残ることになったのである。
要するに、勉強のために残ったのは夕奈だけということ。元々眠そうにしていたこまるは、唯斗が部屋を出ている間に寝落ちてしまっていた。
「よいしょ。こまるは軽いから運びやすいね」
「ふーん?」
「……なに?」
何か文句があるならはっきり言ってくれればいいのに。粗方予想はついてるけど。
「夕奈ちゃんにはベッド使わせないくせに」
「使わせる必要ないからね」
「マルちゃんだって床で寝ればいいじゃん!」
「ダメに決まってるでしょ」
「やーい、差別や差別や」
「眠くなってきたし寝ようかな」
「見捨てないでぇぇぇぇ!」
そのままこまるの隣に寝転ぼうとすると、彼女は腰に抱きついて引き止めてくる。
わざわざ家に泊めたというのに勉強を教えないほど畜生ではないつもりなので、唯斗は仕方なく許してあげることにした。
脇腹をこちょこちょとしてくるのには少しイラッとしたので、目覚ましも兼ねてデコピン2発食らわせておいたけど。
「それじゃあ、僕があげたリストを覚えようか」
「本当にここに書いてある言葉が出るの?」
「学校のテストには、修学度を測るために聞くべき問題がある程度あるんだよ。これを全部覚えれば半分は取れる」
「それでもそこそこあるね……」
「そう言ってる間にも時間は過ぎてるよ」
「お、覚えればいいんやろ! やったるわい!」
ようやくペンを握ってくれた夕奈に「後で確認するからね」と声をかけ、コップを口元へ運ぶ唯斗。
彼が眠気を感じ始めた目を擦りつつ頬をペチペチとやっていると、ふと目が合った晴香がクスリと笑った。
「ふふ、
「スイーツバイキングのためだよ」
「そうだとしても、ためになってるじゃないですか」
「でも、夕奈はすぐに集中が切れるから」
「それを理解した上で、あの分量にまとめたんですよね?」
「……まあね」
唯斗からすれば仕方なく手伝ってあげているだけなのだが、晴香からすると「良き理解者ですね」とのこと。
正直、夕奈のことは半分も理解出来ていないと思っていたから、思わずそんなことは無いだろうと首を傾げてしまった。
「ハルちゃんも眠かったらベッドで寝ていいよ」
「ありがとうございます、そうさせてもらいますね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言いながらベッドに入っていく晴香は、唯斗のパジャマを着ている。
天音がどうしても貸してくれなかったから仕方なくであって、決して元カノに自分のパジャマを着せたかったわけではないよ?
そもそもの話、大きさが合わないから借りても着せるのは問題あったし。
「ふぅ、終わったよ」
晴香が寝息を立て始めてから数分後、夕奈があくびをしながらリストを手渡してくる。
意外にもしっかりと勉強し直してくれたのか、9割くらいは正解していた。夕奈にしては上出来だ。
「うん、よく出来てる」
「ほんと?」
「頑張ったね、褒めれるレベルだよ」
「ふっ、夕奈ちゃんはやれば出来る子だかんね!」
「普段からそうであって欲しいけど」
唯斗がそう呟きつつ、2教科目である古典のリストを取り出そうとすると、彼女は何かを求めるように擦り寄ってくる。
「そんなにリストが欲しいの?」
「ちゃうわ! ほら、頑張ったやん?」
「……?」
「鈍感め! 夕奈ちゃんを褒めてよ!」
「僕の方が褒められたいんだけどね」
「いいからいいから! 褒めたらプレ〇テもらえると思って、ほら!」
もちろんプ〇ステなんてもらえるはずがないので、褒めたところで無駄なだけなのだが、あまりにしつこいので仕方なく言うことを聞いてあげることにした。
「よく頑張ったね」
「頭も撫でて!」
「はいはい。偉いね、よしよし」
「んへへぇ♪ ぎゅーもしよっか」
「調子に乗らないで」
「勉強するためだから、ね?」
「……はぁ、わかったよ」
あの夕奈が勉強してくれると言うのなら、一度のハグくらい安いものである。
彼は自分にそう言い聞かせながら、広げられた腕の中に入っていく。そして特に嫌がることなく、同じくらいの強さで抱き締め返した。
「ふふ、活力が湧いてきた気がする」
「そりゃよかった」
「ついでにキスもしとく?」
「調子に乗りすぎ」
「本当はしたいくせにぃ♪」
「そこまで言うならしてあげようか?」
「っ……い、いい点取れた時のご褒美に取っておこうかな……あはは……」
ほんのりと顔を赤くしながらそう言った夕奈はその後、結構真面目に朝まで勉強してくれたそうな。
それと同時に、冗談で言ったつもりだった唯斗は今更嘘だったと打ち明けることが出来ず、密かに頭を抱えてしまうのであった。
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