第191話 犯人の声にも耳を傾けるべし
そしてやはり何かの見間違いだろうと再度確認し、それが現実であることにため息をついた。
「……何やってるの?」
彼の視線の先にいた夕奈は、何故かこまるの上にのしかかって動きを封じていたのである。
自分の心が汚れているせいか、どう見ても襲っているようにしか見えない。こまるに「助けて」と言われてしまえば尚のこと。
「へぇ、夕奈ってそっちの趣味もあったんだ」
「……違うかんね?!」
「隠さなくてもいいって。容疑者の友人として『いつかやると思ってました』って答えてあげるから」
「せめて容疑者の恋人にして!」
「いや、そこなの?」
彼女のこだわりはよく分からないが、とりあえずこんなヤバい人の恋人だと報道されるのは嫌なので、友人が限界だなと改めて思う唯斗。
そんな彼は、こまるを助け出してあげようと数歩近付いたところで、ふとベッドの下へ隠れた右手に何かが握られていることに気が付いた。
「こまる、何それ」
「な、なななな何でもないよ?!」
確認しようとしたところで夕奈が奪い取り、サッと背中に隠してしまう。
これだけ慌てているということは、きっと彼女にとって良くないものなのだろう。
こまるがそれを見ようとしていたために、あのような形で押さえ込んでいた。
そういうことなら、夕奈が低身長な女の子を無差別に襲うような人間じゃなくても説明がつくね。
「今更見られて恥ずかしい物なんてないでしょ」
「お尻は見られたら恥ずかしいよ!」
「そういうことじゃないから」
腕を後ろに回したまま後退る彼女に、一歩ずつ近づいていく唯斗。客観的に見ればもはやどっちがやばい人か分からなくなりそうだが、そんなことは気にしない。
「唯斗君は知らない方がいいよ!」
「どうして?」
「く、クラスメイトに知られたなんて、きっと精神が持たないだろうし……」
「何のことを言ってるの」
「ぐぬぬ……どうなっても知らないかんね!」
彼女は、そこまで知りたいなら見せてやる!と言わんばかりに、隠していたそれを床に叩きつける。
それを拾い上げた唯斗は、本のようなものの表紙を見て思わず固まってしまった。
「……何これ」
「唯斗君の部屋にあったんでしょ? マルちゃんが見つけたから、見なかったふりしようって……」
「さっきのはそういうことだったんだ」
彼はなるほどと頷いてから、いやいやと首を横に振る。だって、自分の部屋にあったにしては見覚えが無さすぎるから。
夕奈に渡された本はいわゆるR-18のえっちな漫画だ。中をパラパラと見てみるだけでも、純粋な人なら顔を赤らめるようなシーンが沢山ある。
「でも、これは僕のじゃないんだけど」
「嘘付かなくていいよ。夕奈ちゃん秘密にするから」
「私も、秘密は守る」
「そんな同情するような目で見ないでよ」
どうやら信じてもらえていないらしい。もちろん唯斗も健全な男子高校生である以上、このようなものにも興味が無いわけでは無い。
例えこの漫画のようにロリが出てくるタイプのものも、正直なところ嫌いでは無いのだ。
しかし、以前にも言ったように彼はそのようなものを物体として所持していない。全てスマホの中に入っているのだから。
「ちなみに、どこで見つけたの?」
「マルちゃんがベッドの下って……」
「考えてみてよ。夕奈、前にベッドの下を漁って写真を見つけたよね?」
「ああ、そんなこともあったようななかったような」
「それに夕奈と言えど女の子を部屋に入れてるんだよ。簡単に見つかる場所に置くわけないでしょ」
「……た、確かに!」
ハッとする夕奈の様子を見れば、犯人が彼女でないことは明らかだ。今回ばかりは罪はないらしい。
まあ、「見つかりにくい場所に隠してるってこと?」と本棚の裏を確認し始めたので、とりあえずデコピンしておいたけど。
「こまる、カバンの中確認してもいい?」
「……ダメ」
「どうして?」
「唯斗、男の子。見られたくない」
「じゃあ、同性なら大丈夫だよね」
そう言って目配せをすると、夕奈は机の横に置かれたカバンを拾い上げて中を確認してくれる。
こまるはそれを止めようとするが、唯斗に高い高いをされて身動きを封じられてしまった。
「何か見つかった?」
「えっと……これなんだけど……」
若干頬を赤くしながら差し出してきたそれは、やはり18禁のDVD、小説、そしてゲームディスク。
どれもこれも低身長な女の子がヒロインで、特にゲームのキャラはどことなくこまるに似ている気がしなくもない。
「こまる、どうしてこんなのを持ってきたの?」
「…………」
「僕に押し付けて、夕奈が幻滅するところを見たかったとか?」
「ち、違う! そういうのじゃ、ないけど……」
彼女は耳まで真っ赤にしながらプルプルと震えている。相当恥ずかしいのだろう。
しかし、この状況で何も見なかったふりをするほうが、もっと気まずくなるのは明白。
だからこそ、唯斗は教えて欲しかった。この部屋にあったと嘘をついた理由を。
「怒らないから言ってみて」
「……」コク
ようやく信じる気になってくれたのかもしれない。こまるは小さく頷くと、深呼吸をしてから目を見て本当のことを話してくれる。
「唯斗、私を子供だと思ってる」
「そんなことは無いけど……」
「ううん、思ってる。私もドキドキ、させたい」
彼女はそう言いながら唯斗の服の袖を掴むと、軽く引っ張りながら少し潤んだ瞳で見上げて呟いた。
「……意識して。異性、だから」
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