第188話 嫌よ嫌よも好きのうち
「冗談は顔だけにして」
「笑っちゃうくらい可愛いって? あちゃー、さすが美少女
「いや、本当にやめて」
「先っぽ咥えるだけでいいからさ」
「余計に嫌になったよ」
「舐めるだけでも……」
「死んでもイヤだ」
こうなれば強硬手段とばかりに、唇に自分が咥えているのとは反対側を押し付けてくる夕奈。
必死に抵抗するも上からの圧力はやはり強く、手首を押さえつけられてしまえば首を横に振ることしか出来なくなった。
「そろそろ堪忍しなはれ」
「……」
「口を開けば入っちゃうもんね、喋れないかー♪」
彼女は「でも、もはや勝ったも同然」と呟きながらにんまりと笑うと、グッと先程までよりも強くココアシ〇レットに体重をかける。
その直後、まだ3分も経っていないというのにガチャリとドアが開いて――――――――――。
「
「……あぁっ?!」
咄嗟に助けようと彼女の体を抱きしめた
「「んぅ……」」
お互いの唇が濃厚に触れ合ったことが、ほんの一瞬で分かった。記憶にあった、忘れられるはずのない感触だから。
晴香はその様子を『唯斗が夕奈を強引に抱きしめた』と認識し、顔を真っ赤にして「ご、ごゆっくり!」と再度部屋を飛び出していく。
「…………」
「…………」
しかし、今の2人にそんなことを気にする余裕はなく、ただただ見つめ合うだけの時間がしばらく流れた。そして――――――――――――。
「んんっ?!」
一度離れて余韻に浸っている唇を、夕奈……ではなく唯斗からもう一度重ね合わせに行った。
予想外に想定外が積まれ、現状を把握しようと高速回転し始めた夕奈の頭がどんどん熱くなっていく。
けれど、いつの間にか腰に回された腕の抱きしめる力は心地よく、自分が幸せを感じていることは間違いなかった。
「ゆいと、くん……?」
「っ……ご、ごめん!」
彼は名前を呼ばれてようやく正気を取り戻す。
目の前にいるのが夕奈だということはわかっていた。自分がキスという行為を自ら行ったことも。
ただ、自分がどうしてこのような行動に出たのかだけが理解できなかった。まるで何かに操られているような気分だったのだ。
「本当にごめん、体が勝手に……」
「……責任、取って」
「許してくれるなら何でも言うこと聞くよ」
珍しく震える指先をベッドにつきながら何度も頭を下げる唯斗に夕奈はため息をつき、「じゃあ、お願いがあるの」と言って彼の両肩に手を添える。
「質問に答えて、嘘はなし」
「うん、わかった」
「……今のキス、気持ちよかった?」
不安そうに若干の上目遣いで聞いてくる彼女に、唯斗は不覚にも胸がキュッとなるのを感じた。
まさかこれって……と思ったものの、すぐに首を横に振ってありえないとそな考えを吹き飛ばす。
それでもキスに関して聞かれたら、正直なところものすごく満足感を覚えたのだ。
「気持ちよかった、かもしれない」
「ほんと? えへへ、同じだね♪」
「っ……」
その混ざりっけのない純粋な笑顔が、自分のしでかしたことへの罪悪感を少しずつ消していってくれるように感じられる。
今は熱なんて出ていないし、疲れすぎているわけでもない。何か特別な行事でテンションが上がっているわけでも、怪しい薬を飲まされたわけでもないというのに―――――――――――。
『どうして、こんなに可愛く見えるの?』
頭の中にそんな言葉が響き、噛み砕いて飲み込んだ時には既に、唯斗は3度目のキスをしていた。
今度は彼からではなく夕奈から。それでも押し付けられる感触に嫌悪感はなく、むしろ自分の中に積極的な何かさえ感じる。
分からない。自分が夕奈にどんな感情を抱いて、どういう意図で受け入れているのかは分からない。それでも。
「唯斗君、もっと……」
偶然の接吻でタガが外れた止める者のいない求め合いは、最終的に理性と一緒に意識と鼻血も吹っ飛んだ夕奈が倒れるまで続いたそうな。
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