第184話 出会いのお話②

 高校1年の最初の1ヶ月というのは、みんな友達作りに必死になるもの。

 風花ふうかも例外ではなく、席が近かった者同士で仲良くするようにはなったのだが……。


「その余裕ぶってる話し方が嫌いなの!」

「そ、そんなこと言われても〜」

「やめれないなら私に話しかけないで! 聞いてるだけでイライラするの!」


 突然グループのリーダー的な女子に嫌われ、誰も味方をしてくれなかった。そんな時に夕奈ゆうなと彼女に手を焼いている瑞希みずきを見つけたのだ。

 2人ともどう見ても性格が違うというのに、傍から見ているだけで笑顔になってしまう不思議な力があって―――――――――――。


「私も一緒にいい、かな?」

「おう、ちょうどこいつに手が余ってたんだ」

「夕奈ちゃんのどこが厄介なんじゃ!」

「近くにいるだけで問題が起こるところだろ」

「ぐぬぬ……」


 勇気を出してみれば、引っ張りこまれるように仲間に入れてもらえて、無理をする必要もすぐに感じなくなった。


「風花ちゃんだよね?」

「え、あ、そうだよ」

「やっぱり! でも、いつもと口調変えたよね?私、あのゆったりしてるの好きなのになぁー」

「っ……」


 夕奈にとっては何気ない一言だったかもしれないが、風花はその時に確信したのだ。自分の居場所を見つけた、と。



「あれから1年以上、こうして仲良くしてるね〜」

「まさか2年でも同じクラスになるなんてな」

「ふふ、奇跡だよ〜♪」


 夕奈も流されるように「そだね」と口にして、慌てて不機嫌顔を作り直した。

 あれだけ怒ってしまったから、そう易々といつも通りに戻ることが出来なくなっているのである。


「夕奈と、出会ったのは……」

「マルちゃんも話すの?!」

「イヤだ?」

「そういうわけじゃないけど……」

「じゃあ、話す」



 こまるが仲間に加わったのは、風花よりも後のことになる。

 彼女は元々1人でいることに抵抗を感じない、まさに唯斗ゆいとと同じような人間だったのだ。


「ねえねえ、何読んでるの?」


 こまるが読んでいた本を指さしながらの質問。それが夕奈の第一声。

 そして抱いた印象は『ウザい』というシンプルなもので、うるさいのが嫌いな彼女はひたすらに無視を続けた。


「おい、迷惑かけるなって」

「ごめんね、夕奈ちゃんが邪魔して〜」


 常識人っぽいのが2人いるし、少しすれば飽きて放っておいてくれるだろう。そう思いながら気が付けば1ヶ月が過ぎていた。

 学校とはペアだとかグループワークだとかで、2人か4人で組まされることが多いもの。

 いつも知らないうちに夕奈と組まされ、横で騒がれ、一人でいる時間を奪われていく。そんな生活を送る中で、彼女はとあることに気がついたのだ。


(あんまり嫌いじゃない、かも?)


 スマホを触っていても文句を言われない。感情が顔に出づらくても何故か意図を分かってくれる。

 何よりずっと近くにいるせいで、自分がこの騒がしさに慣れてあまり気にしなくなっているのだ。

 そしてとある日のペア作り、自ら夕奈を誘ってみた時の嬉しそうな満面の笑みを見て、彼女のしつこさに自分が変えられたんだと気がついた。



「夕奈が居ないと、まだ独りだった」

「マルちゃん……」

「感謝してる。だからこそ、唯斗は渡さない」

「……へ?」


 突然の宣戦布告に戸惑う夕奈を前に、「気付いてないの、お前と花音かのんくらいだぞ」「だよね〜」と微笑み合う瑞希たち。


「マルちゃん、唯斗君を狙ってるの?」

「隠してる方が、勝ちやすい。でも、セミの抜け殻、踏み砕く趣味はない」

「……つまり、ライバルが落ち込んでるのを見てられなかったってこと?」

「……」コクコク


 まだ完全には飲み込めていないものの、とりあえずこまるが心配してくれていると分かって胸が温まった。

 確かに思い返してみれば、彼女が唯斗に懐いていると分かるシーンはいくつもあったのだ。

 彼女の身長のせいで小動物的なものとしか捉えていなかったけれど。


「まあ、私たちが言いたいのは―――――――」


 瑞希がそう言いかけて、先程入ってきた扉の向こうから聞こえてくる声に振り返った。

 どうやら屋上への鍵が無くなっていることに、職員室の先生が気付いたのだろう。


『だ、誰もいないですよ!』

『嘘をつくんじゃない。鍵がなかったんだ』

『う、うううう嘘なんてついてないですよぉ?』

『声が震えてるじゃないか!』


 見張り番の花音かのんが押さえてくれてはいるが、きっとそう長くは持たない。今のうちに彼女の嘘を本当にしなくてはならないのだ。


「隠れられる場所と言えばゴミ箱くらいか」

「早く隠れよう!」

「お、おい!」


 呼び止める声も聞かず、端っこに置かれてある大きなゴミ箱に飛び込む夕奈。

 しばらくすると「……本当に居ないな」「い、いいい言ったじゃないですか!」「う、疑ってすまない」という話し声と、扉の閉まる音が聞こえてくる。


「ぷはっ! みんなどこに隠れて……」


 汚いゴミの中から顔を出した夕奈は、制服についた汚れを払いながら周囲を見回し、瑞希たちと目が合って固まった。


「……そこかい」


 3人が身を潜めていたのは、屋上へ上がってくる扉のついている四角い出っ張りの屋根の上。

 苦しい思いをして花音を守った夕奈からすれば、関心すると同時に全身から力が抜ける思いだった。


「私たちが言いたかったのは、めげないお前のことが好きだってことだよ」

「うぅ、今言われても複雑なんだけど……」


 この後、夕奈は運動部用シャワーを借りて体を洗わせてもらったそうな。

 本来は関係者以外使用禁止なのだが、あまりの臭いに顧問と部員に同情されてしまったことは言うまでもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る