第183話 出会いのお話①
転校してきた
何とか辛い表情を見せないようにしているのが分かってしまう夕奈は、結局唯斗と会話をしないまま1週間が経った。
「最近、やけに静かだな」
「……うん」
「
「別に」
晴香に腕を引かれて教室から出ていく唯斗を横目で見てから、つまらなさそうにカバンを肩にかけて背を向ける。
「……私にはもう関係ないの」
「ど、どういう意味だよ」
「唯斗君なんてもう好きじゃないってこと!!!」
夕奈はその言葉で瑞希が表情を歪ませたのを見ると、気まずそうに顔を背けて教室から逃げるように飛び出す。
唯斗たちとは反対方向に進み、校舎から出ていこうとするも家に帰る気になれず……。
やっぱり引き返して階段を上り、屋上への扉を開こうとして鍵がかかっていることに気がついた。
「これが必要か?」
背後から聞こえた声に振り返れば、鍵を揺らしながら笑う瑞希、「膝枕してあげようか〜?」とスカートをヒラヒラさせる
「……いらない」
「屋上、上がってみたいって言ってたろ?」
「いらないって言ってるじゃん」
「私はお前と一緒に上がりたいんだ」
瑞希の言葉に続くように、「私も〜♪」「右に同じ」と頷く2人。「ほら、こんな私たちに付き合ってくれよ」と言われてしまえば、階段を封じられている以上断ることは出来なかった。
「……わかった」
「ああ、助かる」
鍵を開けて屋上へ上がれば、夕奈の心とは正反対の青い空が見える。
その眩しさに思わず目を伏せてしまったが、再び顔をあげれば自然と口から歓声が漏れた。
「今日ってこんなに晴れてたんだね」
「この綺麗さは気付かなきゃ損だよな」
「でもやっぱり私……」
「お前に何があったのかは知らない。話せないことなら話さなくてもいい」
「……」
「その代わり、友達なら辛い顔こそ背けるな。そう言ったのはお前だろ?」
「っ……」
それは去年、夕奈たちが高校1年生になりたての頃の話。
入学式の日からずっとしょんぼりしている女の子を見つけた夕奈は、彼女なら話しかけられるという直感を信じてアタックしてみた。
それが瑞希だったわけだが、2週間話しかけ続けた結果を言うと、「ウザい、話しかけるな」とあしらわれただけ。
さすがの夕奈も傷心のあまり諦めかけたものの、これだけダメージを受けたならばとずっと聞けなかった質問を特攻してみたのだ。
「どうしてずっと落ち込んでるの!」
「お前には関係ないだろ」
「いつも冷たいこと言ってるけど、夕奈ちゃん知ってるかんね! いつか私に感謝する日が来るって!」
「は? 何言って……」
「何があったか知らないし、言わないなら聞かないよ。でも、友達になら辛い顔こそ背けないでよ!」
突然の友達宣言に、当時の瑞希が固まったことは言うまでもない。
ただ、その反応に夕奈が「え、友達じゃないの?」と後ろ頭をかいたのが面白くて、彼女は悩みが吹き飛ぶくらい大笑いしてしまった。
「あの時の悩み、私も失恋だったよな。憧れだった先輩に遊ばれて捨てられて、ここが人生のどん底だって思ってた」
「そんなこともあったね」
「でも、文化祭で先輩に再会したんだ。『まだ俺に気があるなら付き合わないか』って言われてな」
知らなかった事実に「え、返事は?」と聞くと、瑞希は指を2本立てながら「蹴り2発」と笑う。
それを見た夕奈は、彼女らしいなと思わず釣られて頬が緩んでしまった。
「確かに感謝することになった。お前の予言は当たってたんだ」
「適当に言っただけだけど……」
「私はその適当さに引っ張られたんだ。なかなか侮れないと思うぞ?」
そんな風に瑞希が昔の話をしたからか、今度は風花が「私が夕奈ちゃんと出会ったのは〜」と話し始める。
「確か、無理して仲良くしてた友達と喧嘩した時だったかな〜?」
「風花の話し方が気に入らないって、便所会合女に言われて孤立してたんだっけ」
「そうそう〜♪」
時は高校1年が始まって1ヶ月半が経った頃まで遡ることになる―――――――――。
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