第168話 結局、みんなポテトがお好き
「へぇ。レッサーパンダのレッサーって、パンダ要素が少ないって意味じゃなかったんだ」
「違うよ。小さいパンダって意味だからね」
そんな他愛もない話をしつつ、ベンチに腰かけて店で買ってきたポテトを口へ運ぶ
彼の隣に座った
「これが150円なんてお買い得やで!」
「関西のテレビショッピングかな?」
「今ならさらにポテトがついてくる!」
「……いや、あげないよ?」
唯斗の手元をじっと見つめてくるので、彼はポテトの入った紙コップをさっと死角に隠す。
しかし、彼女はさすがのしつこさで反対側へ回ると、何かを訴えるような目で見上げてきた。
「くぅ〜ん……」
「そんなに欲しいなら、どうして買わなかったの」
「唯斗君のだから欲しいのだよ」
チッチッチッと指を振ってみせる彼女の言わんとしていることは全く伝わってこないが、ポテトの店は今も長蛇の列だろう。買いに行けとは言い辛い。
「じゃあ、3回まわってワン」
「はっはっはっ……ワン!」
「おまわり」
「礼状ならある、家宅捜査させてもらうぞ」
「最後に理科の
「えぇ、今日はぁ……はて、どこやるんだっけな?」
予想以上に面白かったので、ご褒美に頭を撫でてポテトを一本食べさせてあげた。
食べさせてもらうのは周りの目が気になってたみたいだけど、そこで恥ずかしがるなら3回まわるところから躊躇えばいいのにね。もう何度もやらされてるから慣れちゃったのかな。
「あ、これも美味しい」
「塩加減がいいよね」
「この味が家で食えたなら……」
「多分食べれるよ。裏で揚げてたポテト、コンビニに売ってる冷凍のやつだったし」
「じゃあ、今度唯斗君の家に持ってくね」
「ポテトだけ歓迎するよ」
「私は?!」
「お帰りいただいて」
「夕奈ちゃんよりポテトが好きなんか!」
唯斗が「ポテトを持ってくる夕奈は好きだから」と言うと、「ポテトありき?!」なんて言って落ち込んでしまった。
彼は少し冗談が過ぎたかなと反省しつつ、紙コップの中に残っていた最後の一本を夕奈の目の前で揺らして見せる。
「食べる?」
「……いらない」
「ポテトが夕奈に食べられたいって言ってるよ」
「ポテトと夕奈ちゃんは冷戦状態。馴れ合う義理はない」
「ごめん、そんな落ち込むと思わなかった」
「……末代まで呪ってやるし」
「それって夕奈と僕が結婚したら、子孫を呪うことになるの?」
「っ……そ、その場合は解除するけど」
「思ったより自由がきく呪いだね」
唯斗が「まあ、可能性は低いか」と呟くと、夕奈は「一言余計じゃ」と不満そうに顔を上げて背中をペシペシと叩いてきた。
「それで、ポテトは?」
「夕奈ちゃん、貰えるものは貰う主義だかんね」
「じゃあ、あげる代わりにゴミ捨ててきて」
パクッとポテトを食べてしまった彼女は、してやられたと言いたげな顔で紙コップを受け取ると、それをぎゅっと潰して串と一緒にゴミ箱へ捨てて戻ってくる。
「次はどこに行こっか」
「そう言えば、唯斗君って怖いの得意だよね?」
「得意というか平気かな。どうして?」
「校舎内にお化け屋敷があるみたい。試しに行ってみようよ」
「……いや、夕奈が心配なんだけど」
夕奈は「大丈夫大丈夫!」と言っているが、確か暗いところがかなり苦手だったはず。この間に完全に克服されたとは思えない。
「VRホラゲーで耐性つけてきたし!」
「ちなみに、なんてタイトルのゲーム?」
「『お化けの出ない事故物件を巡ろう』だったかな」
「……いや、ただの内見じゃん」
余裕の表情で「さあ行こう!」と腕を引いてくる彼女に、嫌な予感が背筋を逆撫でしたことは言うまでもない。
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