第161話 コスプレは楽しむに限る
文化祭も1週間後に迫り、当日の装飾やら席の配置決めなど粗方の準備は終わった頃。
ある一人を除いてクラスメイト全員が待望していた例のブツが学校宛に届き、それを身に纏った女子たちが教室へと入ってきた。
「どーよ、メイド夕奈ちゃんも可愛いっしょ♪」
無い胸を張りながらドヤ顔をする
さすがその自信に見合った可愛さを持ち合わせているだけあって、早々に男子の注目の的になっている。
メイド服なんて普通に生きていればほとんど目にすることは無いもの。それだけに関心も高いのだろう。
「あ、あんまり見るなよ……?」
こういう女の子女の子した格好は得意じゃないのか、
その風花はというと、あまり視線を気にしていないようで、純粋に珍しい格好を楽しんでいるようだ。
「皆さんすごく可愛いです!」
「な、
「あ、ありがとうございますぅ……」
教室の隅に隠れるようにしていた
彼女のメイド服には威厳やら由緒正しさを感じられない代わりに、滲み出る頼りなさによって庇護欲がくすぐられるのだ。
「マルちゃんもおいでよー!」
「イヤだ」
「そんなこと言わずにぃ♪」
教室へは入らずに廊下で待機していたこまるは、夕奈によって強引に引きずり込まれていく。
仏頂面なあたり、メイド服をあまり気に入っていないのだろうか。いや、いつも通りかもしれない。
「はーい、マルちゃんの写真撮影は1人1枚まで! 2枚目からは500円だかんね」
「勝手に、決めるな」
「あ、600円が良かった?」
「……殴るぞ?」
こまるのイライラが伝わってきたのか、結局誰もカメラを向けることは無かった。
それに対して不満そうに眉をひそめた夕奈だったが、「まだとっておきのが残ってるもんね!」と言うと再度廊下に飛び出して来る。
「ちょいちょい、どこへ行こうと言うのかね!」
「帰るに決まってるでしょ」
「みんな待ってるよ?」
「待ってるのは夕奈だけだから」
彼女の言う『とっておき』とは、唯斗のことだ。その理由を一言で言うとすれば、単純明快『女装しているから』である。
「カツラまでつけて……こんな姿見られたくないよ」
「ほらほら、夕奈さんと楽しいところ行こ?」
「これが地獄への勧誘か……」
「1回! 1回だけでいいから、ね?」
いかにもな怪しい文言を口にしつつ、グイグイと引きずるようにして引っ張っていく彼女。
唯斗も全力で抵抗したものの、「なら、唯斗君の従妹って設定にしてあげるよ」という言葉で考えがそちらへ向いてしまい、その隙に教室へと放り込まれてしまった。
「……こんな子、クラスにいたか?」
「見覚えはないな、他クラスか?」
「でも、普通に可愛くね?」
唯斗の登場によって、ザワザワが更に騒がしくなるクラスメイトたち。
彼は自分が注目されているのだと分かると、入ってきた扉から出ていこうと振り返る。
だが、あっさりと夕奈に襟首を掴んで元の位置へと戻されてしまい、ご満悦な様子で隣に並んだ彼女は手を叩いて教室中を静かにさせた。
「夕奈、ここまでするなら分かってるよね?」
「あたぼーよ!」
こうなれば腹を括るしかない。従妹であると演技で信じ込ませて、この場にいるのが唯斗では無いことにしなければ―――――――――――。
「こちらは正真正銘、唯斗君でーす!」
「…………は?」
そんな覚悟をぶった斬るように、思いっきりバラされた。それはもう清々しいまでにあっさりと。
彼はしばらくの間呆然と立ち尽くしていたが、皆の驚いた表情を見ているうちに、少しずつ冷静になっていく。
「夕奈、話が違うんだけど」
「なんのことかにゃ〜?」
「……化け猫め」
「誰がジ〇ニャンや!」
「そっちの方がまだ可愛いよ」
唯斗は深いため息をつくと、心底嫌そうな目で夕奈を見る。そして淡々と「後で話があるから、旧体育倉庫に来て」と伝えた。
「そんなところに連れ込んで何する気だね!」
「さあね」
「夕奈ちゃん、まさかのピンチ?」
「……はぁ、大っ嫌い」
あまりの酷さに本音が口からこぼれる。それに対して夕奈が「そういうストレートなのが一番心にくるよ!」と文句を言ってきた。
それならば仕返しにもっとやってやろうと50回ほど繰り返したのだが――――――――――。
「夕奈、大嫌い」
「あっ……もっかい言って……?」
何かに目覚め始めた辺りでやめておいた。
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