第159話 それぞれの弱み
帰りの電車、1人だけ方向の違うこまるが途中で乗り換える際に、
その意味が理解出来ずに首を傾げていると、電車が発車して数分後に彼女からメッセージが届く。
『これね』
たった3文字の短い言葉が、ド〇キでにぎにぎしていたアレの画像付きで。
要するに、こまるはアレがどういう用途で使われるものなのかを知った上で、唯斗に答えさせようとしていたのだ。
「夕奈が悪魔なら、こまるは小悪魔だね……」
「ん? 何か言った?」
「いや、何でもないよ」
覗き込もうとする夕奈から画面を隠しつつ、彼はその向こう側でパン祭りの車内広告を眺めながらヨダレを抑えている
彼女の方は本当に何も知らなそうだし、結果的に隠して正解だったということになるからね。
『今度、唯斗の部屋、漁る』
『何も出てこないよ?』
『きっと、出てくる』
いくらダメと言っても聞いてくれなそうなので、とりあえず『してもいいけど、来る時は連絡して』とだけ伝えておいた。
出てくるとしたらまだ純粋だった頃に書いた将来の夢、『キリンになりたい』くらいだろうし。特に困ることは無いだろう。
今の時代、そっち系の需要はスマホひとつで解決するのだ。パスワードさえバレなければ、決して恥ずかしい思いをすることは無い。
「……唯斗君、なんでニヤニヤしてるの?」
「夕奈の0点を思い出してた」
「性格悪いな!」
「世界一言われたくない相手に言われちゃったよ」
「え、夕奈ちゃんに罵られて嬉しいって?」
「言ってないけど」
「ざーこざーこ♪」
「花音、言われちゃってるよ」
「わ、私ですか?!」
突然呼ばれて驚いた彼女は、「確かに皆さんに比べれば私なんて弱いですけど……」とスカートの裾を掴んで俯いてしまった。
「あーあ、夕奈が泣かせちゃった」
「人のせいにすな。酷い男だよ、まったく」
「花音、安心して。この中で一番頭が弱いのは夕奈だし、体が弱いのは僕だから」
「……私は心が弱いです」
「花音の弱さは優しさ
そう言って頭をポンポンとしてあげると、花音はくすぐったそうに首をすくめつつ表情を緩める。
それを羨ましそうに見ていた夕奈は、強引に腕へ頭を擦り付けてくるが、結局デコピンされて諦めてしまった。
「まあ、世界一図太い人がここにいるしね」
「カノちゃん、言われちゃってるよ」
「ま、また私ですか?!」
「夕奈だよ」
「誰が太いやと! スリーミーやろがい!」
「細い細い、特に胸周りが――――――――」
「ついに触れちゃいけないところに触れたなー!」
「いや、触れてないけど」
「
強引に手を引っ張って自分の胸元に持っていこうとする彼女に、唯斗は必死に抵抗して何とか振り払う。
そんな2人の光景を楽しげに見ていた花音は、微笑みを浮かべながら呟いた。
「ふふ、お二人で結婚すればいいのに」
「「……は?」」
「い、いえ! 今のは忘れてください!」
顔を赤らめてそっぽを向いてしまう彼女を見て、一方が同じく耳まで赤くし、もう一方が心の底から嫌そうな顔をしたことは言うまでもない。
「まあ、もしも結婚することになったら、式には招待するよ。花音も夕奈も」
「遠回しに『お前とはしない』って言ってるよね?!」
「逆にしたいの?」
「そ、それは……その……」
言い淀んでしまう夕奈から窓の外へ視線を移動させながら、呆れから来るものなのか短くため息をついた唯斗。
「夕奈なら結婚に焦る必要なんてないと思うよ」
「そういうつもりじゃないんだけど……」
「何にせよ、高校生のうちから結婚なんて考えるのは馬鹿らしいね。責任なんて背負える気がしないし」
「わ、私なら一緒に背負えるよ?」
「もっと安心して任せられる人がいいかな。夕奈、人生の煽り運転しそうだし」
「誰がガラケー撮影おばさんじゃ!」
「そっちは運転してない方だよ」
そんな他愛ない会話にも区切りをつけ、背もたれに体を預けた彼は、「35歳まで独り身だったら、召使いとして雇ってあげてもいいよ」と言い残して瞼を下ろした。
「それは夜の御奉仕もさせられるやつなんか?!」
「すぅ……すぅ……」
「答えてから寝ておくれよ!」
その後、夕奈は花音に「御奉仕に朝と夜が関係あるんですか?」と聞かれたが、ポテト契約に基づいて黙秘してくれたそうな。
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