第150話 季節は巡りやってくる
「ふっ、今年ももうこんな季節か……」
6時間目のホームルーム。教壇の上でやけに真剣な声色で語り始める
「さあ、我々は選択を迫られている。今こそ立ち上がるのだ!」
そう言って黒板をバンッと叩いた彼女は、そこに書かれた文字を示しながらみんなに向かって問いかける。
「私と共に文化祭で『サンバ喫茶』をやりたい者は手を挙げてくれたまえ!」
「「「「「…………」」」」」
「あれ、聞こえなかった? 手を挙げるんだよ」
「「「「「…………」」」」」
「手が嫌なら足でもいいけど……」
「夕奈、いい加減現実を見ような」
彼女は「どうしてサンバがダメなんだよ!」と床を叩いているけれど、
「じゃあ、『お化け屋敷』がいい人はいるか?」
「「「「「…………」」」」」
「夕奈、良かったな。お化け屋敷もゼロ票だぞ」
「お化けと同レベだと思われたくないんだけど!」
「なら私がサンバに1票入れてやるよ」
「いいのかい?!」
0から1に書き換えられた票数を見た夕奈が、「ふっ、圧勝!」とドヤ顔をするのを生暖かい目で見守りつつ、クラスメイトたちはそっと視線を外して瑞希へと意識を向ける。
「じゃあ、メイド喫茶がいい人は?」
「「「「「はーーーーーい!」」」」」
「おお、なかなか多いな……」
ひぃふぅみぃと上がっている手の数を数え、ついでに両手を上げる不正をしている男子を軽く粛清してから、彼女は教室の隅へと不満の声を飛ばした。
「
「僕はどれでもいいかなって」
「強いて言うならどれがいいんだ?」
「うーん……」
文化祭と言えど、唯斗にとっては騒がしいだけの行事だ。あまり真剣に悩む気にはなれないが、聞かれてしまったものは答えなくてはならない。
「……」ジー
「……何?」
「べ、別にぃ?」
何やら夕奈が物欲しそうな目で見つめてきている。要求されているのは票だろう。
どうせ効果もないだろうしあげてもいいのだが、他の人から彼女に優しくしていると思われるのは何だか癪なのでお化け屋敷に入れておいた。
「お、お化けに追いつかれた……」
「そう落ち込むなよ。どっちにしてもメイド喫茶の圧勝に変わりはないからな」
「ぐぬぬ……メイド喫茶だけは嫌だったのに!」
「何がそんなに嫌なんだ?」
「だって、メイド喫茶だよ? 誰がご主人様だよ! おかえりじゃないよ、初めましてだよ!」
「よく世のメイドさん達を敵に回せるな……」
呆れ顔をしていることも気に留めず、「私は奉仕するよりされたい派なのだよ!」と訳の分からないことを言い始める夕奈。
唯斗がそんな彼女に向かって「でも、前にメイドの役を……」と言いかけると、ものすごい速さで駆け寄ってきてヘッドロックを食らわされてしまった。
「その話は忘れようねー?」
「痛い、もうやめて」
「忘れたらやめてあげる」
「忘れた、全部忘れたよ」
「本当に?」
「ココハドコ、キミハダレ?」
「ちと忘れ過ぎやないか?!」
その後、記憶が再生するまでヘッドロックをされ続けたことは言うまでもない。
ちなみに最後までサンバ勢力で抵抗していた夕奈だが、瑞希に「夕奈なら可愛く着こなせると思うぞ」と言われるとコロッと寝返っていた。
「そもそもサンバ喫茶って何?」
「お茶飲みながらサンバが見られる喫茶店」
「多分3ヶ月目で閉店セールやってるタイプだよ」
「サンバ舐めたらあかんで」
「裏切った人のセリフとは思えないね」
結局、瑞希も唯斗もメイド喫茶でいいということになり、満場一致で出店内容が決定することになったのである。
平和なクラスでよかったよ。おかげでその後の注意事項やら準備についての話し中は爆睡出来たし。
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