第149話 何も知らない計画者と狡猾的協力者
『ふふん♪
電話から聞こえてくるのは、紛れもなく
『実は全て夕奈ちゃんの計画通りだったのだよ!』
「計画?」
『そう、唯斗君が私以外にどこまで心を許すのかを探りたくてね』
なるほど、つまりこまるの本心からの行動ではなく、頼まれてやったことだったのか。
そう理解すればおかしな行動の理由にも納得出来た。どうしてこまるがそんなことに協力したのかは、やっぱり分からないままだが。
『添い寝と手繋ぎ、それとハグ。どこまで許してくれた?』
「全部」
『ほうほう、思ったよりガードが緩いね』
スピーカーの向こう側から、何かをメモする音が聞こえてくる。「私は時間かかったのになぁ」という呟きも一緒に。
唯斗がそんな夕奈に「あれ、高い高いは……」と聞こうとすると、こまるがサッと人差し指を唇に当ててきた。
「……」
「……」
お互い無言のまま目だけで会話が行われる。そして彼は全てを悟ってしまった。
そもそも、夕奈の頼みの中に『高い高い』という項目が、そして『キス』すらも入っていなかったことを。
「ひみつ」
「……」コク
他のものはどうか分からない。しかし、あの行動だけはこまる自身がしたくてしたものだったのだ。
普通にやれば拒まれるとわかっていたから、わざと高い高いをおねだりしてまで不意打ちを計画して。
『ん? 何か言った?』
「ううん、何も」
『そっか! じゃあ、私は唯斗君を遊園地に連れていく計画を立てるから!』
そんなことを言って電話を切る夕奈。こまるはスマホの画面を切ってポケットにしまい、唯斗の顔をチラッと見る。
そして彼の唇から人差し指を離すと、それを自分の唇にそっと触れさせて慣れない笑顔を浮かべた。
「気持ち、よかった」
「こまる……」
「本気、だから」
「……」
その真っ直ぐな瞳に、唯斗は何かが脳裏を過ぎって思わず目を逸らしてしまう。
これは告白だ、答えを出さなければならない。なのに発するべき言葉が何なのかわからなかった。
「……返事、待つから」
そんな彼の心情を察してくれたのか、彼女はそう言ってもう一度ハグをしてからくるりと背中を向ける。
どうやら帰るつもりらしい。その後ろ姿を見ていると、助かったという気持ちと申し訳ないという気持ちが交錯して胸の中がモヤッとした。
「ごめん、絶対に答えは伝えるよ」
「ありがと」
「ううん、僕の方こそありがとう」
淡白な会話を最後に、振り返ることなくリビングから出ていくこまる。
唯斗は見送る代わりに玄関の扉が閉まる音を聞き届けてから、深いため息とともにソファーへ腰を下ろした。
「……僕、おかしくなったのかな」
確かにこまるに対して恋愛感情を抱いたことは無い。自分の知っている中で一番静かで、一緒にいても苦痛を感じないというのはあるが。
けれど告白だと理解した瞬間、彼女の気持ちが本気ならば拒む必要も無いとすら思った。
だって、あんなにも近くにいて心が落ち着く相手は、なかなか見つからないだろうから。
「なのに、拒む前提で話してた……」
かき消されてしまったのだ、ほんの一瞬過ぎった夕奈の顔によって。
彼女とこまるが友達だと言うのもあるかもしれないが、唯斗はここでOKを出してしまうことを裏切りだと思ってしまった。
理由は自分でも分からない。けれど、確かにあの時の彼はこまるよりも夕奈のことを考えて……。
「僕に選ぶ権利なんて……ないのに……」
自分がこんなふうに思うはずが無いし、思ってはいけない。そう言い聞かせるように心の中で繰り返しつつ、フラフラと自室のベッドへ向かう彼。
そして、扉がガチャリと閉まると同時にカーテン裏から姿を現した
「ハルちゃんさん、いつまでお兄ちゃんを苦しめれば気が済むの……?」
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