隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第133話 大部分がそうだからと言って、目の前の人が当てはまっているとは限らない
第133話 大部分がそうだからと言って、目の前の人が当てはまっているとは限らない
「……何その格好」
「男の子はこういうのが好きなんでしょ?」
お風呂から上がってきた
明らかに大きさが合っていないところを見るに、おそらく先程勝手にクローゼットから持っていたのはこれだろう。
「暑いからってズボン履かないのはだらしないよ」
「いや、そういうのじゃないんだけど……」
「ていうか人の服を無断で着ないでくれる?」
「可愛い女の子が自分の制服着てるんだよ? 少しくらいドキドキするっしょ!」
「全く」
「なんでだよ!」
彼女は悔しそうな顔でその場にペタンと座り込むと、手の出ていないシャツの袖をぺしぺしと床に叩きつけた。
「彼シャツをすれば、どんな男の子もキュン死するって雑誌に書いてあったのに……」
「洗い物増やされて喜ぶって、おかしな男もいるんだね」
「おかしいのは唯斗君だよ!」
「……はぁ、僕にどうして欲しいの」
「夕奈ちゃんを褒めて」
「頭いいね」
「よろしい、ならば戦争だ」
ワントーン低い声でそう呟いた夕奈は、左手のひらに右拳をぺちぺちとぶつけながらこちらに近付いてくる。
そして逃げようとする唯斗を捕まえて抱きつくと、にんまりと微笑みながら言った。
「戦闘力53万の可愛さに惚れたまえ!」
「5の間違いじゃない?」
「誰がただのゴミやねん!」
不満そうに頬を膨れさせた夕奈は彼の頬を両手で挟むと、マッサージするようにむにむにとやる。
迷惑そうに首を振って抵抗していた唯斗は、しばらくして我慢の限界とばかりに彼女を押し退けた。
「そろそろ脱いでよ、夕奈の匂いがついちゃう」
「その言い方なんかエロいね」
「夕奈臭がつく」
「急に嫌な感じなった?!」
「自分で脱がないなら僕が脱がすよ」
「ふふん、やれるものならやってみー!」
無い胸を張りながら「ほれほれ♪」と胸元のボタンを強調してくる夕奈。
唯斗はどうせ看病した時に脱がせているからと自分の中で頷きつつ、さっさと終わらせてしまおうとするが――――――――――――。
「この下、何も着てないんだよね」
彼女のその一言で手が止まってしまった。
「下着は?」
「着けてないよ、暑いもん」
「つまりボタンを外したら……」
「ダイレクトに素肌だね」
さすがにこれには唯斗も悩んだ。よく考えてみれば、異性の服を脱がすという行為には問題がある。
看病した時には口実があったが、現在の『勝手に着て欲しく無かったから』という理由で脱がせば、悪になるのは明らかに自分の方だった。
そういう社会的な部分も考慮した上で、唯斗は大事なことを一つだけ確認しておくことにする。
「ちなみにパンツは?」
「さすがにそれは履いてるよ、舐めないでくれる?」
「プライドを持つところがおかしい」
彼は「そっちも脱ごっか?」と聞いてくる夕奈にデコピンしつつ、仕方なく彼シャツ状態を受け入れてあげた。
どうせ着替えてと頼んでも言うことを聞いてはくれないだろうし、余計な気力と体力を使うくらいならそっちの方が楽だ。
まあ、明後日から必要なのは夏服だから、冬服を急いで洗う必要も無いしね。
「その代わりにちょっとお願いしてもいい?」
「仕方無いなぁ、夕奈ちゃんがハグしてやんよ♪」
「へぇ、よくわかったね」
「……ほぇ?」
冗談のつもりで言ったはずが、気が付けば唯斗の腕の中にいる。そんな状況にあわあわと混乱していると、背中に回されていた手がポンポンと優しく叩いてくれた。
「この温もりがじわじわ伝わってくる感じ、いいね」
「っ……い、いきなりどうしたの?」
「夕奈って口はうるさいけど、この体温はすごい落ち着くよ」
「そ、そう? 唯斗君ならいつでも……いいよ?」
「それは冬場に助かる、夕奈は歩くカイロだね」
彼の言葉に不満を感じながらも幸せが勝ってしまう彼女が「人をモノ扱いするなし……」と呟いた声は、照れのせいか微かに喉奥で震えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます