第129話 お支払いはお気持ちで
掃除を終えた後は、来た時と同じように車で下山する。このペンションが次に開かれるのは、冬休みになるらしいね。
「またみんなで来たいな」
「今からでも楽しみだね〜♪」
「わかる」
「私もです!」
帰路さえも賑やかな車の中、
「6人で来ようね」
薄目を開けてそのキラキラした笑顔を見てしまった彼は、「……その時も誘ってくれればね」とだけ返して窓の外へと視線を逸らした。
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「こまるとのこと、考えておいてくれ」
「後悔はさせないからね!」
「……まあ、後ろ向きに検討します」
そんな会話をしてから走り去って行く車を見送り、唯斗は短いため息をこぼした。
家の前まで送ってもらえたのはありがたいけれど、いつまでもこまるのことを言われると疲れてしまう。彼女だってそんな気持ちはさらさらないだろうに。
「……で、どうして夕奈まで降りてるの」
「いやぁ、着替えを一日分多く持ってきちゃってね。せっかくだから消費しちゃおうかなって」
「まさか僕の家に泊まるの?」
「もう何度も寝た仲じゃないか、今更気にするな!」
「誤解される言い方はやめて」
「じゃあ、何度も抱かれた仲?」
「ハグしただけでしょ。ていうか、やっぱり昨晩のは夢じゃなかったんだ」
「あっ……」
彼女はやっちまったと言いたげに口元を押えるが、その意図が何となくわかっていた唯斗は、「勘違いされなくて済んだし助かったよ」とお礼を言った。
「私は別に勘違いされていいんだけどなー」
「抱き枕がないと眠れないお子ちゃまだって?」
「そっちじゃないわ! てか、抱き枕なんて無くても寝れるし!」
「ならどうして僕にあんなこと言ったの」
「唯斗君の優しさを試したのさ!」
「……」
ドヤ顔を向けてくる彼女に「じゃ、また学校で」と背を向けようとすると、夕奈は「待っでよぉぉぉぉ!」と足にしがみついてくる。
どうしてここまで執着するのかと聞いてみれば、先程の着替え余っているというのは建前で、本当は家の鍵を忘れてきてしまったからだと言うのだ。
「
「……そうなんです、可哀想な女の子なんです」
「でも、僕に助けてあげる義理はないよね」
「なんでもずるがらぁぁぁぁ!」
「人の服に鼻水付けないでよ」
出来ればこのまま断って平穏な休みを満喫したいところだが、このまま放っておいて風邪を引かれでもしたら寝付きが悪い。
いや、それよりも夕奈が悪い人に誘拐されでもしたら……いや、彼女を誘拐しても苦しむのは誘拐犯の方だから問題ないか。
「……今、すごく失礼なこと考えてるよね」
「どうして分かったの?」
「女の勘よ」
「非論理的」
「意外と当たるんやで?」
そう言いつつジリジリと玄関の扉に近付いてくる夕奈。さりげなく勝手に上がり込むつもりらしいが、目の前に住人がいると言うのに図々しい。
「わかったよ、一晩だけ泊めてあげる」
「おお、神よ!」
「その代わり一緒に寝たりしないからね」
「夕奈ちゃん……何もしないよ?」
「信用出来ない」
「わかった、心配なら手足を縛って構わん!」
「いや、そういう趣味に付き合うのは御免だよ」
「別に喜ぶわけじゃないかんね?!」
夕奈が「唯斗君と一緒がいい!」とただを捏ね始めたせいで、家の前を通ったおばあさんに笑われてしまった。
いつまでもこうしていられてはたまらないと、唯斗は仕方なく「わかった、信用するから静かにして」と腕を掴んで家の中に引き込む。
「唯斗君ったら強引だなー!」
「あ、もしもし? 不法侵入者が玄関に……」
「ちょっと待てい!」
彼女は慌てて唯斗が耳に当てているスマホを奪い取ると、通話を切ろうとして画面が真っ暗なことに気がついて地団駄を踏んだ。
「し、してやられた?!」
「夕奈ってほんと単純だよね」
「誰がアメーバじゃ!」
「それは単細胞」
低レベルすぎるボケにため息をこぼしつつ、「もっと従順なら可愛げもあるのに」と呟くと、夕奈は「そこまで言うならわかりましたよー」と舌を出してみせる。そして――――――――。
「泊めてもらうお返しに、今日一日は唯斗くんの言うことは絶対守ってやんよ!」
寂しげな胸を張りながらそう宣言した。
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