第124話 コテージの夜は長い
夜、普段ならそろそろ寝ようという頃合い。
「……寝たいんだけど」
「まあ、そう言うなよ。せっかくだから
そう言う彼女にベッドから引きずり出され、他のみんなもコテージ中央に集められる。
一体何をするのかと思っていると、
「さっきマコさんから貰ったんだ」
「推奨4人以上って書いてあるから、みんなでやろうよ〜♪」
「やりましょう!」
3人はものすごくワクワクした顔をしているし、見た目通り単なるジェンガだったのなら躊躇うこともなかっただろう。
しかし、唯斗はそのパッケージに書かれた不穏な一文を見てしまったせいで、不安を抱かざるを得なかったのだ。
「『合コン向け』ってどういうこと?」
「ああ、それは引き抜いたピースに書かれてたお題をこなすってルールなんだ」
「……は?」
「まあ、特に問題ないだろ。女子ばっかだし」
「……僕も一応男だけど」
「この場で一番身の危険がある奴、私はその男だと思うけどな?」
瑞希のその言葉に、唯斗は言い返すことが出来なかった。考えてみればその通りだったから。
もしも本気で女子に拒まれたのなら、唯斗は瑞希や風花によって取り押さえられるだろう。
しかし、彼の隣でノリノリな夕奈が暴走した場合、どれだけ嫌がっても彼女たちは止めない可能性が高かった。
「やっぱり参加しないってことに……」
「よし、6人で始めるぞ」
「……話を聞いてよ」
強制的に参加させられることになってしまい、逃げようとしても夕奈と風花に両サイドから拘束される始末。
仕方なくプレイだけはすることにするが、もしも本当にやばい事になったら110番しよう。手段なんて選んでいられないからね。
「じゃあ、まずは私からだな」
そう言いながらそっと引き抜かれたピース。初手ということもあって安定感はバッチリだが、お題の内容の方は反応を見る限りそうでも無いらしい。
「いきなりこれかよ」
「えっと、『初恋の人の名前を言う』だって〜♪」
「いきなりハイレベルです!」
恥ずかしいのか躊躇っていた瑞希だが、夕奈に「あの人なんでしょー?」と言われると俯きながらボソッと答えた。
「は、
口を閉じてから更に赤くなる姿に、周りのみんなが「よく言った!」「すごいです!」「可愛いヤツめ!」と言葉を飛ばす。
それで余計に照れたのか「い、言ったんだから次だ次!」と順番を回し、振られた側の風花は「サクサク行っちゃうね〜♪」と手頃そうなピースを抜き取った。
「『次のターンまで左隣の人と手を繋ぐ』だよ〜」
「左隣ってことは……」
「おだっちだね〜♪」
彼女は迷う素振りも見せずに手を取ると、「早速私得イベントだよ〜」と満足そうに微笑んだ。
これにて彼女のターンは終了、バトンは唯斗に渡されたわけなのだが……。
「左手だけじゃやりずらいよ」
「妨害の意味もあるんじゃないかな〜♪」
「……そういうことね」
正直、片手でやるのは不安を感じてしまうが、まだ3手目ということもあってそこまで揺れるわけでもなかった。
後半に出なくてよかったと思えば、そこまで厳しいハンデでもないんだろうね。
「やっと抜けた」
「なんて書いてあるんですか?」
「えっと、『一人選んでその人とハグ』……って、どうしてそんなに見てくるの」
読み上げると同時に、夕奈とこまるの目に力がこもったように見えた。
本人たちはなんでもないような振りをしているが、今のは明らかに自分を選べというアピールとしか思えない。
唯斗はこの2人なら(夕奈はありえないので)間違いなくこまるの方を選ぶのだが、現状を考慮すればそういうわけにもいかなかった。
「繋いだままだからね、お願いしてもいい?」
「大歓迎だよ〜♪」
手を握りつつ他の人とハグするのは難しい。それならこの2人でしてしまうのが一番手っ取り早いのである。
唯斗が3秒ほど風花の体を抱きしめてから離れると、風花はどこか火照ったような顔で「母性出ちゃうよ……」と呟いた。
「ぐぬぬ……」
「夕奈、どうしたの変な顔して」
「誰がエド〇るみや!」
「いや言ってないけど」
幸せそうな風花の表情を見て、あからさまに不機嫌になる夕奈。
そんな彼女は、ぜひ自分も唯斗と何かしたいと祈りながら引っこ抜いたピースのお題を確認し、期待した直後に突き落とされたのだった。
「右隣の人に!……お、往復ビンタされる?」
「夕奈、準備はいいよね」
「ちょ、早い早い! ていうか目が怖いよ!」
「大丈夫、痛いのは最初だけだよ」
「一撃で神経まで殺す気かい?!」
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