第123話 調子に乗りすぎると痛い目を見る

「いてて……」

「ごめん、さすがにやりすぎたよ」


 痛そうに腰を擦る夕奈ゆうなに謝る唯斗ゆいと。こまるはカーペットの上に寝転びながら、いつも通りスマホをいじっている。

 どうしてこんな状況になったのかと言うと、原因は風呂上がりの夕奈の行動にあった。


『僕はそろそろ上がるから』

『待ってよー♪ もう少し夕奈ちゃんとの混浴、楽しんじゃお?』

『……貸し1つ使って拒否する』

『それ傷つくからやめてくれない?!』


 そんな感じで延々と邪魔された結果、あろうことか唯斗が腰に巻いていたタオルに彼女の手が引っかかって落ちてしまったのだ。

 つまりは隠していたものが露わになってしまったわけで、無表情のまま見つめてくるこまると正反対に、純粋極まりない夕奈は大いに取り乱した。


『す、すぐに隠そう!』

『どうして手で隠そうとするの』

『だって見えちゃ……うわぁぁぁぁ!』


 単にタオルを巻き直せばいいだけの話だと言うのに、パニックになった彼女が意味不明な行動をしたことで状況が悪化。

 最終的には、自分のタオルを外して渡そうとしてくるのを止めようとして、足を滑らせた唯斗が夕奈の肩を押してしまい、転んだ拍子に腰を痛めてしまったというわけだ。


「元はと言えば夕奈が引っ付いてくるからだよね」

「あー、腰が痛いなぁ。唯斗君のせいでもう歩けないかもなぁ!」

「……わかったよ、痛みが残らないようにマッサージしてあげるから」

「いいんすか?!」

「いらないならしないけど」

「いる! めっちゃいる!」


 彼女はそう言うと大急ぎでベッドに寝転んで、はよ来いとばかりにマットレスをべしべしと叩く。

 今の動きを見る限り本当に痛めてるのか怪しいところだが、自分のせいで怪我させておいて疑うのも失礼だろうと心の奥にしまっておいた。


「じゃあ、腰を解すからね」

「待って! 腰以外にもう一箇所頼んでもいい?」

「一箇所だけならいいよ」

「よっしゃ」


 グッとガッツポーズをして見せた彼女だが、すぐに何やらモジモジし始めると、少し甘えたような声で聞いてくる。


「マッサージってことは、唯斗君が私の体を揉んでくれるってことだよね?」

‎「まあ、そうなるね」

「じゃあおっp――――――」

「マッサージは無しでいいんだね」

「肩でお願いします!」


 夕奈は「揉んでもらうと大きくなるって聞いたのに……」と呟きつつ、大人しく枕に顔を埋めて動かなくなった。どうやらもう異論はないらしい。


「じゃあ揉んでいくよ」

「揉むって言わないで」

「自分から言ったくせに」

「女の子は複雑な生き物なの!」


 夕奈はそんなことを言うが、チラッと視線をやったこまるは腑に落ちないというジェスチャーをしていた。

 あくまで夕奈の言う『女の子』には、全ての女の子が含まれる訳では無いみたいだね。


「僕、男に生まれてよかったよ」

「貴様、全女子を敵に回したな?」

「訂正。夕奈みたいなのに生まれなくてよかった」

「夕奈ちゃんを敵に回すということは、全人類を敵に回すということやぞ?!」

「何様のつもり」

「みんなの太陽神!」

「ずっと洞窟から出てこなきゃいいのに」


 その一言に対して夕奈が親指を立てながら言った「その時は唯斗君も一緒に連れていくぜ!」という言葉を聞いた唯斗が、実際にそうなったらと想像して恐怖したことは言うまでもない。


「とりあえず解していくからね」

「揉むっていうの恥ずかしくなっちった?」

「……」


 いい加減しつこすぎると、ついに唯斗の中でカチンと来てしまった。

 彼は感情を完全に消し去ると、マッサージというていで夕奈の腰の上に座って逃げられないようにすると、彼女の耳元に口を寄せて小声で囁く。


「そんなに揉んでほしいんだ?」

「……へ?」

「それなら揉んじゃおうかなー」

「え、あ、ちょ、冗談だって……」

「ねえ、揉んでもいい?」


 もちろん胸ではなく腰の話なので、後ろに聞こえるか聞こえないかくらいの声量で「腰を」と付け足しつつ、右へ左へ移動しながら『揉む』を連呼した。

 これだけでそこそこ効果があったようで、開始から5分が過ぎた頃の夕奈は、息を荒らげて抵抗することも出来ないほど疲弊してしまっていて……。


「も、もう……許してくらひゃい……」


 しっかりと反省してくれた顔をしていた。少しばかり目が虚ろだったけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る