第118話 夫婦の夜の秘密
あれからしばらくして
「唯斗君、私のこと抱きしめてくれたんだって?」
「危険な状況だったからね」
「ふふん♪ 抱き心地はいかがだったかな?」
「あんまり良くなかったよ、平らだし」
「……え、もっとしたいって?」
「言ってないけど」
「そっかそっか、仕方ないから抱き締めてあげるよ。夕奈ちゃんは優しいからね」
そう言いながら首を絞めようとしてくる夕奈を瑞希に止めてもらうと、彼女は「数年後にはボンキュッボンやぞ!」とありえないことを言って床に倒れ込んだ。
「胸の大きさは15歳で決まるらしいよね〜」
「……
「でも、太れば大きくなるらしいよ〜?」
「まじか?!」
目を見開いた夕奈はむくりと起き上がると、キッチンの方から持ってきたポテチを開けてバクバクと食べ始める。
確かにこういうのを食べるのが太る近道ではあるけれど、傍から見ている唯斗からすればそれでいいのかという気持ちにならざるを得なかった。
「まあ、お腹も大きくなるけどね〜♪」
「……」
風花の言葉にポテチをそっと机の上に置いた夕奈は、「ちょっと走ってくる」と呟いてコテージから出ていこうとする。
しかし、ドアノブを掴もうとした手が掴んだのは空気だけだった。彼女よりも先に外側から開けた人物がいたのである。こまるのお父さんだ。
「うわ、びっくりした……」
「すまない、唯斗くんはいるかな」
「あそこでぐーたらしてますよ」
ポテチを爆食いした人に言われたくないなと思いつつも、ベッドでゴロゴロしていたのは本当なので何も言わないでおく。
唯斗が目が合ったお父さんに「何か用ですか?」と聞いてみると、彼は「少し来てもらいたい」と手招きをした。
「君のおかげでこまるは助かった。その分のお礼をしたいんだ」
「お礼なんていいですよ」
「そう言わずに来てくれ。こまるも待っている」
「お礼の内容にこまるが何か関係してるんですか?」
「詳しくは言えないが、私たち夫婦が密かに毎晩していることをこまるとしてもらおうと思っている」
お父さんの言葉に唯斗が首を傾げているのに対し、瑞希と風花は顔を赤らめ、夕奈はアホ面のまま固まる。花音はずっと寝たままだが。
「とりあえず来てくれ。こまるも唯斗くんにならいいと了承してくれているんだ」
「こまるがそう言ってくれるなら、断る方が失礼ですよね。わかりました」
唯斗はベッドから降りてしっかり歩けることを確認すると、みんなに「行ってくる」と伝えてからお父さんに続いてコテージを出た。
「……密かにしていることって何だろうね?」
「それはあれだろ。夫婦なんだし」
「夜な上に密かにだもんね〜」
答えの出ない意味深な言葉だけを残された3人は、お互い控えめに目配せをし合う。
そして「
==================================
そしてこまると向き合っている唯斗はと言うと。
「こういうのは最初が肝心なんだ」
「マルちゃんも恥ずかしがらないでね!」
「やる時は一気に最後までだ」
「途中でやめると余計に辛いからね!」
「でも、僕もう限界で……」
「……ダメ、恥ずい」
腕の筋肉の限界で顔が真っ赤になる唯斗と、子供扱いされることに対して照れるこまる。この行為の名前というのは――――――――――。
「これをすれば夫婦仲は良好になるんだ」
「そうだよ、パパとママも毎晩してるんだもん!」
―――――――そう、『たかいたかい』である。
今子夫妻が出会った日、道で転んで泣いているマコさんを幼女だと勘違いしたお父さんは、たかいたかいをして慰めてあげたんだとか。
そんな変わった恋の始まり方をした2人は、結婚してから毎晩たかいたかいをして出会いの日を思い出しているらしい。
「唯斗くん、こまるの初めてをもらったんだ。これはもう婿になってもらうしかないな」
「いや、それはちょっと……」
「唯斗くん、マルちゃんを幸せにしてあげてね!」
「あの、僕に選択権は?」
「「無い」」
「ええ……」
この後、限界にも関わらずもう一度たかいたかいを勧められた彼が、この地獄から一目散に逃げ出したことは言うまでもない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます