第117話 一人では出来ないことがある
「あいつら、遅くないか?」
ふと時計を見上げた
「もしかして向こうで何かあったんじゃ……」
「向こうって冷凍倉庫の中ですか?!」
「そうだとしたらまずいね〜」
嫌な予感というのはよく当たる。瑞希が「私、見てくる」と言って立ち上がると、話を耳にしたこまるのお父さんがこちらへ歩いてきた。
「出発は何分前だ?」
「そろそろ1時間になりますね」
「……俺も行こう、トラブルかもしれない」
お父さんは足早に工具の入った箱を取ってくると、マコさんに「医者を呼んでおいて欲しい」と頼んでからコテージを飛び出す。
その長身に見合うスピードで山を駆け上がって行く姿に、瑞希も心配そうに見送る花音へ「温かいお湯を頼む!」と言い残して後を追いかけた。
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「……大元の配線が切れてるな」
こまるのお父さんがそう言うと、瑞希は固く閉ざされた扉の前で息を飲む。
しかし、そんな彼女を安心させるように、お父さんは持ってきた工具箱の中から動線のようなものを取り出して見せた。
「大丈夫だ」
お父さんが異常のある部分を切って代わりに予備の電力と直接電子ロックと繋ぎ合わせると、目の前の解除装置に電気が通い始める。
瑞希は急いで聞いていた番号を入力すると、まだ開ききっていない扉の隙間から中に入り込んだ。
「おい! みんな大丈夫か?!」
見てみれば3人は倉庫の隅に集まっており、
全員肌が青白くなっていて、声をかけてみても返事がない。一刻の猶予も争う状況だということがひと目でわかった。
「連れ出すぞ」
「は、はい!」
こまるのお父さんは愛娘と唯斗を両脇に抱え、瑞希も夕奈を背負って倉庫から脱出する。
その時に感じた温度差のせいか、瑞希の背中に嫌な汗が背中を伝った。
「マコ、医者は来てるか?」
「もうすぐ到着するはずだよ!」
2人は急いで山をかけ下りると、3人をコテージの風呂場へ連れていき、沸かしておいてもらった風呂の湯を服の上からかけて温めてあげる。
しっかり血の気が戻ってくるまで続けた頃、ようやく到着した医者が濡れたままベッドに寝かせられた3人を診察し始めた。
「旦那さん、3人が見つかった時はどのような状況でしたか?」
「冷凍倉庫の中で重なるように倒れていました」
「……なるほど」
医者はイスから立ち上がり、「1時間と聞いて半ば助からないと思っていました」と言いながらこまるの横へ移動する。
「もしも3人が別々の場所にいたのなら、体の小さなこの子は確実に凍死していたでしょう」
「っ……」
「今回は彼らの判断と早急な対処のおかげで無事でしたが、あくまでこれは奇跡です。気をつけてくださいね」
そう言い残して去っていく医者を、こまるのお父さんは深く頭を下げて見送った。
彼は扉が閉まるとすぐに目元を隠しながら、コテージから出ていってしまう。泣いているところをみんなに見られたくないのだろう。
「もう少し温めてやろう」
「そうだね〜」
「私もやります!」
その言葉に頷いた2人は、それぞれ夕奈と唯斗の体をゴシゴシと擦り始める。
瑞希もこまるの横にしゃがむと、その小さな手を握りながら「もう大丈夫だぞ」と声をかけてあげた。
それに反応したのか、彼女はうっすらと目を開けると虚ろな瞳を動かす。
「こまる、目が覚めたか?」
「……瑞希、ここは?」
「コテージだ、助かったんだよ」
こまるはその言葉に安堵したようにため息をつくと、すぐにキョロキョロと辺りを見回す。
そしてまだ眠っている唯斗を見つけると、フラフラとした足取りで歩み寄り、彼の手をぎゅっと握り締めながら言った。
「ありがと」
唯斗が起きるまでの間、彼女がベッドの傍から離れることは無かった。しっかりと
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