第115話 山登りは足腰が大事
「本当にこの上に倉庫があるの?」
「あるよ」
「もう、
「
こまるのお父さんに言われた『野菜を取りに行って欲しい』というお願いをこなすため、唯斗・夕奈・こまるの3人は倉庫へ向かっていた。
しかし、倉庫がある場所に行くためには、さらに高い場所まで徒歩で登らなければならない。故に体力の無い唯斗は早くもバテてしまっているのだ。
「
「魚の調理は苦手って言ったの、唯斗君だよね?」
「内蔵とか触るの苦手なんだよ」
「ふっ、軟弱だねぇ」
やれやれと言わんばかりに首を振って見せる夕奈に、唯斗が「なら夕奈はできるの?」と聞くと、彼女はふいっとそっぽを向きながら「やれば出来るし」と呟く。
「やったことないの?」
「だ、だってヌルヌルしてるし……」
「女子か」
「正真正銘女の子ですけど?!」
「どの口が言ってるんだか」
「……唯斗君、ちょっと向こうの茂み行こっか」
夕奈は頬をピクつかせながら肩を掴んでくるが、唯斗はこう見えてもう足が限界を迎えていた。
話をすることで疲れを一時的に忘れてはいたものの、突然引っ張られたりすれば山道で踏ん張ることなど到底出来ない。
「あ、ちょっ……?!」
唯斗の体がフラッと後ろに傾いた瞬間、夕奈は慌てて彼の後ろに回り込んで支えた。
その華奢な体のどこにそんな力があるのかは分からないが、唯斗はとりあえず「ごめん」と謝っておく。
「いいよ、私も悪かったから」
「僕、やっぱり登り切れる自信ないよ」
「マルちゃんは一人で進んじゃってるけど、とりあえずここで少し休む?」
「迷惑になるし夕奈も行って。降りるくらいなら一人でも出来るから」
彼がその場で腰を休めようとすると、夕奈は「仕方ないなぁ。ほら、手伝ってあげるから」と手を握ってきた。
「一人で帰ったら頼りない男だと思われるよ?」
「事実だから仕方ない」
「仕方なく無い。私は唯斗君がちゃんと頼りになる男だってって知ってるし」
彼女はそう言ってニヤッと笑うと、「夕奈ちゃん、離れてあげないって言ったよね?」と握る手に力を込める。
そのまま強引に唯斗を引っ張ると、再度山道を登り始めた。どうやら力を貸してくれるということらしい。
「どうせならおんぶしてくれたらいいのに」
「贅沢言うなし」
「でも、ありがと」
「……おん、いいってことよ♪」
少し驚いたように振り返った夕奈は嬉しそうに微笑んでから、ようやく見えてきた倉庫を見上げた。
その前ではこまるが退屈そうに待っていて、相変わらずスマホをポチポチと操作している。
「ごめん、待たせて」
「別にいい。予想済み」
こまるはそう言いながらスマホをポケットにしまうと、すぐ後ろにある倉庫の電子ロックを解除した。
空気の抜けるような音を立てながらゆっくりと開かれる扉の隙間からは冷気が溢れ出し、外の温かい空気と中和していく。
「温かくなるから早く」
こまるに急かされて中へ入ると、温度を上げすぎないためなのかすぐに扉は固く閉ざされた。
中は冷蔵庫のようになっているようで、半袖姿で留まり続けるには少し寒い。
それはパーカーを羽織っている夕奈も同じようで、2人は「材料、全部集めて」というこまるの言葉にせっせと動き始めるのであった。
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一方その頃、コテージでは。
「お、お魚さんがこっちを見てますぅ……」
「
「きっと食べられるから恨んでるんですよぉ!」
「とりあえず落ち着け」
調理されていく魚を前に涙目になる花音を、瑞希が必死に宥めているところである。
「花音、お前は今まで何匹の魚を食べてきたんだ?」
「食べた食パンの数は覚えない主義です……」
「どっかの誰かも同じこと言ってたな。もしも食べた魚に恨まれるなら、私たちはとっくに呪い殺されてるだろ?」
「……確かにそうですね」
瑞希に頭を撫でられて正気を取り戻してきた彼女は、もう一度魚と目を合わせて小さく頭を下げた。
「しっかり感謝をすれば、きっと大丈夫ですよね!」
「ああ、いただきますには気持ちを込めるんだぞ」
「はいです!」
マコさんの手によってオーブンへ並べられていく魚たちを、花音は延々と見つめ続けたそうな。
「……美味しそうです♪」
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