第114話 何事も加減と思いやりが大事
「べ、別に
「真っ赤だね」
「なっ?! ジロジロ見んなし!」
サッと胸元を隠す夕奈に
ちなみに透けて見える色も真っ赤だった。初めて
「唯斗さん、お魚さんの箱を開けてもらえますか?」
「いいけど……って、
「はい、なんでしょう?」
「……捕りすぎだよ」
振り返った先にいた彼女は、両手で抱えるほどの魚を捕まえていた。ざっと数えて12、3匹くらいだろうか。
これを全部手掴みで捕まえたというのだから、唯斗には花音がただの女子高生なのか疑いたくなるところである。
「それに1匹捕まえるごとに持ってこないと、せっかく生きたまま持って帰るのに弱っちゃうよ?」
「ご、ごめんなさい……」
「次からは気をつけてね」
とりあえず、持ってきてくれた中でも小さめの魚と元気そうな魚はリリースし、残った3匹をケースの中へと入れた。
「これで人数分は揃ったね」
「なら、先にマコさんに届けてくれるか? 私たちは道具を片付けてから戻る」
「わかった」
僕は肩にケールの紐を掛けて立ち上がると、リールを巻いている
少し遅れて追いかけてきた夕奈には、 バスタオルでペシペシと叩いてきて鬱陶しかったからケースを運ぶのを手伝ってもらった。
コテージまでは遠いからね。1匹も捕まえてない分、これくらいは働いてもらわないと。
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「すっごく大きい! みんなありがとう!」
魚を見たマコさんは手を叩いて喜び、すぐに調理に取り掛ると言ってケースを受け取ってくれる。
しかし、案の定持ち上げることすら出来ないらしかったので、唯斗がキッチンまで運んであげた。
「唯斗君は優しいね。やっぱりマルちゃんの婿さんにピッタリ!」
「……それは遠慮しときます」
暇さえあればお見合いでもさせられそうな雰囲気を醸し出してくるマコさん。
唯斗はすぐに断って逃げ出そうとしたものの、彼女は小回りの効く小さな体で道を塞ぐと、「あの子じゃ何か不満なの?」と聞いてくる。
「そういう訳じゃないですよ」
「私に似て背は低いけど、すごくいい子だよ?」
「いや、そこは問題じゃないというか……」
「小学生みたいだけど、料理もできるの!」
「あの、マコさん?」
「胸は小さいけど―――――――――――」
唯斗が気付かせてあげようとするも間に合わず、ロリお母さんは禁句を口にしてしまった。それも真後ろで娘が聞いている中で。
「お母さん」
「……ま、マルちゃん」
「きらい」
「いやぁぁぁ! ママのこと嫌わないでぇぇぇ!」
「知らん」
そっくりな母親がそっくりな娘の足にしがみついている。そんな異常な光景に戸惑っていたのも束の間、こまるはマコさんを引き離すとコテージから出ていってしまった。
「うぅ……」
「マコさん、そんな落ち込まないでください」
「同情するならあの子と結婚してよぉ!」
「まあ、それじゃ」
「唯斗くんまで見捨てないでぇぇぇ!」
今度は立ち去ろうとした自分にしがみついてくるマコさんに、唯斗は夕奈と同じくらいめんどくさい人だなとため息をこぼす。
しかし、このまま放っていくのも気が引ける。彼は何か元気にさせられるものはないかとキョロキョロしていると、ふとこまるのお父さんと目が合った。
「……」
「……」
無言で見つめ合うこと数秒、お父さんはゆっくりと立ち上がるとこちらへ向かって歩いてくる。
その表情は強面なせいで怒っているようにも見え、唯斗はマコさんを悲しませたことを怒鳴られるのではないかと後退りしてしまった。
「唯斗君、だったかな」
「はい、そうですけど……」
「悪いがこまるの案内で野菜を取ってきて欲しい」
目の前で足を止めたお父さんは低い声でボソッとそう言うと、唯斗を出口の方へと向かせる。
どうやら野菜はあくまで口実で、本心はマコさんと2人だけにして欲しいということらしい。
「分かりました」
頭を下げてから足早にコテージから出た唯斗は、あの夫婦のやり取りが少し気になって、悪いと思いつつもドアの傍で聞き耳を立てることにした。
すると、10秒も経たないうちに中から「キャッキャッ」と幼女のような笑い声が聞こえてくるではないか。
「お父さん、何をしたんだろ……」
さすがに中を覗くことは出来ず、唯斗は一生解けないかもしれない謎を抱えたまま、こまるがいるであろう別のコテージへと向かうのだった。
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