第112話 マザーズチェック
結局、くじ引きの結果は絶対だと
「はぁ、くじ運無さすぎるね……」
「そうかな? 夕奈ちゃんと同じ部屋なんて、普通なら鼻血出して喜ぶと思うけど」
「歩く騒音機のどこがいいんだか」
彼はそう言いながら部屋の隅に荷物を置くと、早速ベッドの上に寝転がる。
散々な言われような夕奈はというと、姿見の前で顎に手を当てながらカッコつけていた。
「この世は顔さえ良ければ勝ち組よ」
「なら僕は負け組か」
「そんなことはないっしょ」
「じゃあ、夕奈は僕の顔がいいと思ってるの?」
「そ、そういう訳じゃ……」
口ごもってしまう様子に唯斗が「お世辞はいらないから」と言うと、夕奈は「……本心なのになぁ」と独り言のように呟く。
その声が聞こえていなかった彼はあくびをしながら伸びをした後、視線だけを夕奈の方へ向けた。
「まあ、百歩譲って同じ部屋なのはいいけど、僕のベッドには入ってこないでね」
「えぇ、そう言われると逆に……」
「二度と口をきかなくなるよ」
「ぜ、絶対に入りません!」
そんなやり取りをしつつ、唯斗が窓の外から聞こえてくる木々のざわめきにうとうとし始めていると、突然ガチャリとドアが開かれる。
そこから駆け込んできた人影は、彼が体を起こして確認するよりも早くベッドに飛び込んできた。
「ぐふっ……」
「唯斗君?!」
思いっきりお腹にダイブされたせいで、口から何かが飛び出しそうになるのを何とか抑え込む。
夕奈が慌てて駆け寄ってきてくれるが、近付いてはいけないという約束を思い出したのか、2mほど手前で立ち止まってしまった。
「唯斗くん、こんにちは!」
「こ、こまる……じゃない、マコさんですか」
「正解! 2回目で見分けるなんてすごいよ!」
「こまるは絶対にこんなことしませんからね」
「えらいえらい」と頭を撫でてくるマコさん。唯斗が「何か用ですか?」と聞くと、彼女はニコニコ笑いながら首を縦に振る。
「お母さんとして、唯斗くんがマルちゃんの婿さんに相応しいかをチェックしに来たの!」
「……婿?」
「あの子が男の子を誘うなんて、きっと好きだからに違いないよ! だからお母さんがしっかり見定めてあげる!」
「は、はぁ……」
いきなり飛び込んできては突拍子もないことを言われて困惑していると、目の前のロリお母さんは『マザーズチェック』と称して唯斗の腕や胸を触り始めた。
「筋肉はあまりないね、運動は何かしてるの?」
「全く」
「それだと体力が心配だね。会社から疲れて帰ってきて、そのまま寝るだけじゃ離婚まっしぐらだよ」
「……何の話ですか?」
「夫婦は毎晩楽しまないとってこと!」
マコさんはピシッと人差し指を立てると、今度は頬をむにむにと押し始める。これも何かの検査なのかな。
「肌は何かお手入れしてるの?」
「いえ、何も」
「してないのにこんなに綺麗なの?! 羨ましい!」
「マコさんもこまると変わらないじゃないですか」
「もう、口が上手なんだからぁ♪」
ロリお母さんは謙遜して見せるが、唯斗からすればいまだにこの人が本当に母親なのかを疑っているレベルなのである。
この小さな腹にかつては赤ん坊が入っていたというのだから、人間の構造というのは実に不思議なものだ。
「くんくん、くんくん……唯斗君の匂い好きかもしれない。お母さん安心しちゃう……」
「ちょ、マコさん?!」
「んやぁ、夕奈ちゃん邪魔しないでよ〜!」
娘の友達にじゃれついてくる母親。字面だけだとかなりまずいが、現実でもやっぱりまずいものはまずい。
ついに見ていられなくなったらしい夕奈が、強引に引き離してくれたおかげで助かった。
「まだ確認したいことがあるのにぃ〜」
「そういうのは私のいないところでしてください!」
彼女はマコさんをコテージから追い出し、ドアに鍵をかけてしまう。ロリお母さんもしばらくは扉の前で抗議していたけれど、やがて諦めて去っていった。
「夕奈、ありがとう」
「いいってことよ」
パンパンと手を叩き、額の汗を拭いながら歩み寄ってくる夕奈。唯斗はそんな彼女を見上げつつ、「でも、約束破っちゃったね」とため息をついた。
「夕奈、さっきベッドに近付いてたよ」
「え、助けてあげたのに?」
「僕は頼んでないけど」
「そりゃないよ!」
「今だって1m以内に入ってる」
「悪魔の所業?!」
その後、どうしてもノーカンにして欲しいと頭を下げられたので、良心のある唯斗は仕方なくマッサージ15分間で手を打ってあげたそうな。
ちなみにマッサージ中は私語を禁止とし、もし言葉を発した場合は15分をそこから測り直しになるというルールも付けたらしい。
「僕って優しいね」
「……どこがやねん」
「小声で言っても聞こえてるよ。喋ったから8回目のやり直し」
「も、もう許してくだせぇ……」
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