第111話 一人より二人の方がいい
車に揺られること40分、途中で
車から降りた
「やっぱりコテージって書いてるね」
「だってマルちゃんがペンションだって……」
「勘違いしたんじゃない?」
正直、その違いを知ってる人なんてほとんど居ないだろうし。唯斗がそう心の中で頷いていると、話を聞いていたらしいこまるが服を引っ張ってきた。
「あそこ」
「ん?」
彼女が指差す方向に目を向けると、中央の広場を囲むように建っているコテージから少し離れた位置に、もう一つ建物があるのが見える。
「あれだけペンション」
「へぇ、ちゃんと用意してあるんだね」
唯斗がそう感心していると、こまるは小さく首を横に振りながら「ちがう」と言った。
「予算、足りなかった」
「あ、そういうことか」
「でも、安く泊まれる」
「ここはそこそこ人気なの?」
「長期休みだけ営業する、いつも満員」
さすがに平日に泊まりに来れる人は多くないからだろう。夕奈曰く普段は父親が別の仕事をしていて、こっちは副業みたいなものらしかった。
唯斗がそんな話を思い出していると、こまるは夕奈の目の前に移動した後、ペンションの方を指差しながら言う。
「夕奈の部屋、あそこ」
「……なんだって?」
これには夕奈も困惑して聞き返してしまった。いきなり自分だけが風呂もトイレもない場所を割り当てられれば、こういう反応にもなるだろう。
「だって―――――――」
こまるが言うには、コテージの数は4つで1軒あたりにはベッドが2つずつ。
こまるの両親が1軒使うとして、残りの3軒に残り全員を割り当てようとした時、唯斗を女子と同じ部屋にするわけにはいかないため、自然と誰かがペンションを使わなくてはならなくなる、ということらしかった。
「いやいや、唯斗君がペンションで良くない?!」
「彼のトイレは?」
「そ、それは……」
もちろん、ペンションに宿泊した人のために公衆トイレも一応あるにはある。
しかし、昨日から水流装置の不具合で使えなくなっており、ペンションに泊まることになった人は他の部屋のものを使うしかないのだ。
「つまり、唯斗君がペンションになると、女子の部屋に入ってきてトイレだけして帰るってこと?」
「そうなる」
「夜中にトイレしたくなったら、寝てる間に入ってくるってこと?」
「いえす」
「お風呂も同じ」と頷くこまるにしばらく悩み込んだ夕奈は、やがて唯斗の方を見ながら両手をスリスリし始める。
「あのぉ、唯斗さん?」
「絶対にいやだ」
「まだ何も言ってないよね?!」
「僕をペンションに泊まらせるんでしょ?」
「夕奈ちゃんはそんな酷いことしないし!」
彼女はそう言って頬を膨らました後、何かをおねだりする子供のようなキラキラした瞳で言った。
「私と同じ部屋に泊まって?」
「僕までペンションなんて嫌だよ」
「いや、2人でコテージだかんね?!」
夕奈は「どうして揃って苦労する必要があるのさ」と呆れたように首を振って見せるが、唯斗からすれば彼女と一緒という状況がもはや苦行である。
「というか、よく考えたらどうして私がペンションなの? カノちゃんでもいいと思うんだけど」
「わ、私ですか?! ゆ、夕奈ちゃんがどうしてもと言うのなら……」
花音が「ひとりでも我慢、しますね……」と言いながら下唇を噛み締めるのを見た夕奈は、彼女の肩にそっと手を置いて首を横に振った。
「私が間違ってた、カノちゃんは瑞希と一緒がいいよね」
「い、いいんですか?」
「いいのいいの、カノちゃんを一人にしたら罪悪感がすごいし……」
胸を押えながら人間らしさを垣間見せた彼女に、花音は満面の笑みで「ありがとうです!」と頭を下げる。
「まあ、花音だったら同じ部屋でもいいけどね」
「私はダメなのに?」
「こればかりは人間性の差だから仕方ないよ」
「そんな諭すように言われても傷つくかんね?!」
結局、夕奈が駄々を捏ね続けたせいで、部屋割りはペンション(1人)も含めたくじ引きで決めることになった。
その結果、引かれずに残った紙に書かれていたのがペンション。つまり、全員がペアになるということだ。
「ねえ、唯斗君は何番だったの?」
「先に教えて」
「私は3番だよ!」
「え」
そして唯斗は自分にとってくじ引きの神は、数ヶ月に死んでいたのだということを思い出すことになる。
「……やっぱりペンションの方がいいかも」
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