第110話 母親はやっぱり(キャラが)強い

「……まさか当日に誘ってくるとはね」

「まあ、間に合ったんだからいいじゃん」

「別にいいけどさ」


 そう言いつつため息をこぼす唯斗ゆいとは、現在夕奈ゆうなの隣でバスに揺られている。理由はもちろん、こまるの両親が主催するBBQに参加するためだ。


「でも、本当に僕が行ってもいいのかな」

「マルちゃんが誘ったんだから大丈夫っしょ」


 夕奈はそう言ってくれるが、唯斗が心配なのは両親がそれを知っているのかどうかだ。

 いきなり男が現れたりなんてすれば、一泊させてもらうのだから娘を心配するかもしれない。


「ちなみにこまるが遊びに男の子を誘ったことは?」

「私の知る限りでは無いかな」

「それはもっとまずいね……」

「ちなみに、私も唯斗君以外誘ったことないよ?」

「別に聞いてない」

「少しは喜べやおら」


 肘で脇腹をグリグリとやってくる夕奈に、全く動じない唯斗がやり返そうとすると、「ちょ、そっちはダメでしょ」と普通に拒否されてしまった。

 自分はやっといて相手にはダメだなんて、理不尽にも程があるよね。代わりにデコピンしておいたけど。


『次は〜五条ごじょう〜五条です』


 そんなこんなしているうちに目的の駅に到着し、唯斗たちはリュックを背負って下車する。

 2人はそこから比較的近い場所にある駐車場まで歩き、あらかじめ伝えられていたナンバーの車を探した。


「マルちゃんのご両親、ここに迎えに来てくれてるはずなんだけど……」


 スマホの画面と車とを見比べながら歩いていた夕奈は、奥の方に止まっている車を確認して「あった!」と声を上げる。

 それと同時にスライド式のドアから出てきたのは、こまると家が近くだからと途中で拾ってもらった瑞希みずき風花ふうかだ。


「ちゃんと小田原おだわらも来たんだな」

「おだっちにしては珍しいよね〜♪」


 感心したような視線を向けてくる彼女たちに「せっかくのお誘いだから」と答えると、2人は目を見合せながら意味ありげに笑う。


「小田原も夏休みの間に変わったんだな」

「私たちに対する抵抗が無くなったもんね〜」

「瑞希たちには元々抵抗はないよ」


 「抵抗があるのは……」と言いながらとある人物に目を向けた唯斗は、彼女の顔を見て「いや、なんでもない」と言葉を止めた。

 それでも不満だったのか「余計に傷つくよ!」と叩いてくる夕奈。嫌そうな顔をしていたから気を遣ってあげたのに……優しさを返して欲しい。


「ふぇぇ、遅くなりましたぁ!」


 そこへ汗だくで走りながらやってきた花音かのんが合流する。

 瑞希は「ギリギリセーフだな」と言いながら、カバンの中からペットボトルを取り出して渡してあげた。


「ありがとうです!」

「あんまり飲みすぎるなよ、到着までトイレ行けないから……って花音?」

「ぷはぁ〜! 冷たいお水は美味しいです♪」

「……先が思いやられるな」


 空になったペットボトルをぺしゃんこにする花音に早速手を焼いている瑞希を眺めていると、準備が終わったのか車の中から3人が降りてきた。

 1人はこまる、もうひとりはお父さんだろう。そして、お父さんにベッタリとくっついているもう1人の女性は――――――――――――。


「あれ、こまるが2人に増えた……?」


 背丈や体格、顔付きまでもが瓜二つ。唯一違うところと言えば、楽しそうに満面の笑みを浮かべているところだ。


「あれはマルちゃんの母親のマコさん。見間違えるくらい似てるでしょ」

「あれがお母さん? 姉妹じゃなくて?」

「やっぱりそういう反応になるよね」


 夕奈は驚いている唯斗にクスクスと笑い、「話してみれば嫌でも違って見えてくるよ」と小声で教えてくれる。

 彼が半信半疑で近付いてくるマコさんを見つめていると、その視線に気がついたのか彼女はトコトコと駆け寄ってきて目の前で足を止めた。


「あなたがマルちゃんの新しいお友達かな?」

「あ、はい。小田原 唯斗です」

「礼儀正しくて偉いね! いい子いい子したげる♪」


 マコさんはそう言って手を伸ばすものの、唯斗の頭には届かずに少し悲しそうな顔をする。

 その瞬間、何やら視線を感じて顔を上げてみると、こまるの父親が恐ろしい形相でこちらを見ていた。


「……どうぞ」


 その瞳から本能が何かを感じ取り、唯斗は自然と屈んで頭を差し出す姿勢になる。

 マコさんは「えへへ、優しいね!」とまるで子供のように喜ぶと、こまると同じ小さな手でポンポンと頭を撫でてくれた。


「パパ、こんな子がマルちゃんのお友達なんて嬉しいね!」

「……ああ、そうだな」


 見た目も中身も口調までも子供のようなロリお母さんと、背が高い上に体格もがっしりしている強面お父さん。

 唯斗はこまると両親との温度差を飲み込めないまま、車へと案内されるのであった。

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