第106話 服選びは慎重に

 仕事が終わった後、給料という名のお礼を受け取った唯斗ゆいとは、「実は天音ちゃんに似合いそうな服があるんだ」と勧められ、せっかくだからと見せてもらうことにした。

 瑞希みずきが持ってきてくれたのは、プリーツのサスペンダースカートと言うもので、簡単に言うと制服のスカートに肩紐を付けた感じだ。

 小学生に似合う可愛らしいデザインな反面、ハイウエストで足が長く見え、大人っぽい印象も与えられるらしい。


「せっかくのおすすめだし、これにしようかな」

「そうか? なら夕奈ゆうなとお揃いにできるな」

「どういうこと?」

「実は夕奈も最近同じものを買って行ったんだ」


 唯斗はその言葉を聞いて、天音と夕奈が同じスカートを履いている姿を想像してみた。

 天音はあれでも夕奈に懐いている。もしもペアルックなんてことになれば、さらに仲良しになってしまって、ゆくゆくは毎日家に―――――――――。


「やっぱり別のにしていい?」

「悪い、もうレジ通しちまった」

「でも、まだレジに立ってないよね」

「1750円になります」

「考えてみたら、天音には少し丈が短い気も……」

「1750円になります」

「……はい、1800円で」

「50円のお返しです」


 結局、瑞希の微動だにしない営業スマイルで押し切られ、買わされることになってしまった。

 もちろん天音には似合うと思うよ。というか、我が妹にならなんでも似合うとさえ思える。

 でも、夕奈と同じとなると余計に性格が似てきたりするかもしれない。唯斗にとってはそれが不安で仕方がないのだ。


「じゃあ、昼飯食べに行くか」

「……うん」

「そんな嫌そうな顔するなって。喜ぶと思うぞ?」

「そうだね、天音が喜んでくれるなら……」


 兄として妹の笑顔は守るべきものだ。個人的な夕奈への感情でそれを躊躇うのは良くない。

 唯斗は手渡された袋の持ち手をギュッと握りしめると、天音の喜ぶ姿のためにしっかりとプレゼントする覚悟を決めるのであった。

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 一方その頃、小田原おだわら家にて。


「あれ、唯斗君いないの?」

「お兄ちゃんならお手伝いしに行ったよ」

「お手伝いですか?」

「うん、瑞希お姉ちゃんに頼まれてた」


 ちょうど夕奈と花音かのんが遊びに来ていた。


「夕奈師匠、そのスカート可愛い」

「この良さわかるか、我が弟子よ。実は瑞希の店で買ったんだよね」


 夕奈がドヤ顔で見せびらかしていると、天音に肩紐を思いっき引っ張った後に離され、ベチンと言う音と共にしばらく床を転がり回った。


「天音ちゃん、危ないからやめましょう!」

「でも、師匠の反応面白いよ」

「そういう問題じゃないんですよぉ……」


 なんとか花音が宥めたことで、二度目の犯行は無事食い止められる。夕奈も伸びる肩紐の恐ろしさを知ったのか、こっそりと肩から外していた。


「それにしても脚が長く見えますね」

「夕奈ちゃんは元々長いけど!」

「でも、短すぎてパンツ見えちゃいそうだよ?」

「の、覗き込むなし!」


 天音からすれば自分が履いたこともないようなスカートだ。好奇心旺盛な小学生ということもあって、彼女は興味津々に夕奈のスカートを触り始める。


「履き心地良さそうだね」

「あ、ちょ、天音ちゃん?!」

「触った感じもいいし」

「そこは……さ、触っちゃダメだから……!」


 お尻や太ももの近くを撫でられ、必死に堪えながらも時折悩ましい声を漏らす彼女。

 それさえも今の天音には聞こえていないらしく、彼女は高さを固定するためにウエストで結ばれている紐をするりと解いてしまった。


「「「……あっ」」」


 その瞬間、肩紐の外されたスカートは床にずり落ちてしまい、覗かなければ見えなかった下着があらわになる。


「このパンツは……」

「き、気合い入ってますね……」

「っ〜〜〜!」


 唯斗の家に来るからと、男の子が好きそうなのを選んできたことがバレた夕奈は、両手で顔を覆うとそのままトイレの中へと駆け込んでしまった。

 その後、ソファーに座った時にちらっと見えた下着が別のものになっていたのだけれど、そこに言及する勇気のあるものは誰もいなかったそうな。

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