第101話 施されたら施し返す
『けほっけほっ……暑いよぉ……』
翌日の昼頃、
「どうかしたの?」
『唯斗君の熱が伝染ったみたいで……』
「そっか、お大事に」
『ちょ待てよ』
「あれ、キ〇タク?」
『……この流れ、既視感あるね』
こんなやり取りができるなら元気はありそうなものだが、それでも時折咳が聞こえてくるあたり、辛いのは本当なのだろう。
「
『用事で出かけてる』
「
『家族でお出かけって言ってた』
「
『マルちゃんと温泉巡り』
「
『トラックに撥ねられて異世界転生したって』
その言葉を聞いた唯斗が「本当に花音がそんなこと言ったの?」と聞くと、『ほんとだよ。後ろからナ〇ィの声聞こえたし』と真面目なトーンで返された。
「ちなみに、〇ビィはなんて言ってたの?」
『
「それ、瑞希じゃない?」
『……え、瑞希も転生したってこと?』
「そもそも誰もしてないってことだよ」
いつもの夕奈もバカではあるが、今日の彼女はさらに酷い。それほど熱が辛いのだろう。
唯斗は瑞希たちの目的が、自分に夕奈の看病をさせることで昨日の借りを返すチャンスを作ることなのだと推測すると、仕方なく彼女のお願いを聞いてあげることにした。
「わかった、今からそっちに行くよ」
『い、いいんすか?!』
「僕も鬼じゃないからね」
『ほんと助かる!』と礼を言ってくる夕奈に、「インターホン押したら鍵だけ開けてね」と伝えて通話を切る唯斗。
彼は外出用の服に着替えると、新品のマスクと財布をカバンの中に入れて部屋を出た。
「
「どこ行くの?」
「夕奈の熱が酷いから看病してくる」
「そっか、おかゆでも作ってあげてよ」
「そうする。ちゃんと課題しとくんだよ」
「うん、わかった」
リビングにいる妹とそんな会話をしてから、足早に家を飛び出していく唯斗。
そんな兄を「いってらっしゃーい♪」とご機嫌に見送る彼女は、玄関の鍵を締めながらクスリと笑った。
「お兄ちゃんも課題こなさないとね」
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夕奈の家に到着し、開かれた玄関から中に入った唯斗は、目の前でフラフラしている彼女に目を丸くした。
「大丈夫なの?」
「へ、へーきへーき! ちょっと動いたから疲れただけで……」
そう言いながらくるりと背中を向け、靴を脱いで上がろうとした夕奈は、その段差に
何とか唯斗の支えが間に合ったからよかったものの、電話してきた時よりも悪化しているらしかった。
「僕が連れてってあげるから」
「……ありがと」
彼女自身もさすがに限界を感じているらしく、大人しく差し出された背中に乗ってくれる。
唯斗はゆっくりと立ち上がると、あまり揺らさないように意識しながら彼女の部屋へと向かった。
「じゃあ、寝てて。おかゆ作って来るから」
「ま、待って」
「大丈夫、材料は来る途中で買ってきたから」
「そうじゃなくて……」
ベッドに座らせた夕奈は、部屋から出ていこうとする唯斗を引き止めると、何やらモジモジとし始める。
熱がある時は一人でいると不安になるものだということは唯斗にも分かるし、なるべく近くにいてあげたいとも思うが、今ばかりは仕方が無いのだ。
「なるべく早く戻ってくるから」
「違うんだってば……!」
宥めて去ろうとする彼の手首を掴む夕奈。しかし、力が入れられずすぐにたらんと下ろしてしまう。
それでも夕奈の意思に気が付いた唯斗は、ドアの方を向いていた体を彼女へ向けると、目線の高さを合わせるように屈んであげた。
「お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
「うん」
その後、弱々しい声で告げられたお願いに、唯斗はしばらく困惑することになる。
これこそ、天音の言うところの『課題』なのだ。
「……汗がすごくて、体を拭いて欲しいんだけど」
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