第99話 理由の先にある運命
「でも、僕は誰も責めようとは思わなかったよ。自分だって同じ立場になれば、友達を見捨ててただろうから」
「
「一人になると案外楽になって、むしろそっちの方が楽しかった。元々、僕は人付き合いが得意じゃなかったんだ」
唯斗がちらりと夕奈の方を見る。彼女はその瞳から自然と、今の言葉が嘘でないことを感じ取った。
浮気されて裏切られたこと自体には傷ついていたものの、結果的に一人で過ごすこと自体の辛さは感じていないということだろうか。
「けど、今でも思うよ。僕が捨てられたのは、何の才能も力もなかったからなんだろうなって」
「……」
「もっと魅力的な人間だったら、誰も悪者にしなくて済んだのにね」
「……それは違うと思う」
唯斗の言葉をボソッと呟くように否定した夕奈は、すぐにもう一度「絶対に違うよ」と繰り返して、首をブンブンと横に振った。
「唯斗君はすごいよ?!」
「何が?」
「私みたいに誰かと一緒じゃないと耐えられないような人間じゃないし」
「バカにしてる? 今の僕は好きで一人を……」
「バカになんてしてない! 私の言葉を素直に受け取らないのも、唯斗君の悪いところだよ!」
大きな声で怒りながら詰め寄ってくる夕奈に、唯斗は思わず「……ごめん」と謝罪の言葉を口にする。
「私こそ怒鳴ってごめん。でも、どうしても知ってて欲しかったの。私だって初めから
夕奈の言葉に唯斗が「……本当に?」と返すと、彼女は大きく頷いて見せた。
夕奈のようなタイプは友達が自然と出来るものだと思い込んでいた唯斗には、本人から聞いてもとてもじゃないが信じ難い。
「そんな時に一人でも涼しい顔をしてる唯斗君を見かけたの。自分はこんなに頑張ってるのにってすごく憎かった。でも、それ以上にかっこよかった」
「夕奈、去年から僕のこと知ってたの?」
「そうじゃなきゃ、隣の席になったくらいでいきなり話しかけたりしないよ」
彼女は口に手を当てながらクスクスと笑った後、「けど夕奈ちゃん、ちょっと性格悪いみたい」と表情を曇らせた。
「私はね、多分証明したかったんだ。一人でいる唯斗君に楽しいって思わせることで、自分が必死になったことが間違いじゃないって」
「……」
「でも、最近気付かされちゃった」
夕奈は右手の人差し指を自分の唇に触れさせると、それを唯斗の唇へと軽く押し当てる。
それから舌をちろっと見せ、はにかんだような笑顔を浮かべた。
「唯斗君といる時の私、世界一楽しんでるなって」
「夕奈、そういうのは冗談でもやめてって……」
「本気なの。ずっと本気だった」
「……」
「冗談だと思うなら突き放してよ。私、それでも離れてあげないから」
そう言いながら腕を回してくる彼女に、唯斗は口から言葉を発することが出来なくなってしまう。
こんな時、なんと言えばいいのかを彼は知らないのだ。
どれだけ目をこらしても、夕奈からは嘘の色を見透かすことはできない。けれど、彼の頭はそれが真実だと受け入れられていなかった。
だって、いつも邪魔ばかりしてくる彼女が、自分の一番の理解者になろうとしているだなんて、あまりにも非現実的すぎたから。
「ほ、本当に突き放すよ?」
「いいよ。絶対一人にさせてあげないから」
「……」
夕奈の肩に伸ばした手が震える。頭では彼女のことを受け入れられないと思っているはずなのに……。
「夕奈ちゃん無しじゃ生きていけないようにしてやるかんな」と抱きついてくる感覚に、鼻をくすぐる甘い匂いに、理由は分からないのにすごく安心感を与えられてしまって―――――――――――。
「……夕奈」
「んぅ、素直でよろしい♪」
―――――――気が付けば抱き締め返していた。
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