第91話 アンケートの半分は嘘で出来ている
「……で、これで許されるとお思いで?」
彼は「これでも頑張って考えたんだけど」と抗議するも、普通に書き直しを命じられてしまった。
「やって欲しいキャラに対して、『特になし』って答えていいわけないじゃん!」
「自分に嘘はつけないよ」
「優しい嘘くらいつけやおら」
唯斗が仕方なく既に書かれた文字を消して、何か適当に書こうとすると、夕奈は追い打ちをかけるようにもうひとつの項目にもダメ出しをしてくる。
「あと、一番良かったキャラに『猫』って書くなし」
「自分に嘘はつけないよ」
「それ言えば許されると思ってない?」
「オモッテナイヨ」
深いため息をついた彼女は唯斗からペンを取り上げると、質問文の横に手書きで(※猫以外)と付け足した。
これこそ、密かに唯斗が計画していた『ビリビリで体力を奪って、夕奈を大人しくさせよう作戦』が不可能となった瞬間である。
「やって欲しいキャラはともかく、良かったのなんて他に無いよ」
「あるじゃん、メイドとか良かったっしょ?」
「あれが一番ないよ」
「なんで?!」
彼女は驚いた顔をしているが、唯斗からすればメイドキャラはそもそも色々とおかしかった。
キャラも合っているのかよくわからない上にご主人様に暴力、現実なら即刻解雇もの。
それを本人が良かったと言っているのだから、むしろやって欲しくない項目を作って投票したいレベルである。
「なんでもいいからさ、絞り出してよ」
「じゃあ、普通の夕奈でいいや」
「普通って今の私ってこと? どして?」
「変に作ってる感がないから」
唯斗の答えにしばらく首を傾げていた夕奈だが、やがてその意味を理解すると、にんまりと頬を緩ませながら「そかそかー♪」と彼の肩を叩き始めた。
「やっぱり素の夕奈ちゃんが一番好きかー!」
「好きとは言ってない、マシなだけ」
「もう照れ屋さんなんだからー♪」
「
「普通の夕奈ちゃんで満足ですはい!」
部屋から出ていこうとする唯斗をイスに座り直させつつ、回答欄に『普通』と書き込む夕奈。よほどあのビリビリ地獄が
「本当は猫なのになぁ」
「猫が好きなんじゃなくて、苦しんでる私を見るのが好きなだけでしょ?」
「よくわかったね」
「認めんな、このドSめ」
「でも、途中から喜んでたよね?」
「喜んどらんわ! 夕奈ちゃんはNだかんね」
そう言いながら胸を張る彼女に唯斗が「いや、Bじゃない?」と言うと、「いや、胸の話じゃないから! ノーマルのNだよ!」と普通に返された。
「Bってのは否定しないんだね」
「……Bの
「そういうのあるの?」
「あ、あるよ。唯斗君知らないの?」
「へぇ。帰ったら
「ないないない! 上とか下とかないから!」
慌てて前言撤回する夕奈に、「当たり前じゃん、何言ってるの?」と変な人を見るような目を向ける唯斗。
騙された恥ずかしさと向けられる眼差しによる苛立ちから、瞳から光を失った彼女は「ちょっとクローゼット行こっか」と唯斗を引きずり込んでいく。
「待って、クローゼットに行くのはお願いだよね」
「……もしかして貸し1を使わせようとしてる?」
「よく分かったね」
「そこまで馬鹿じゃないわ」
夕奈はクローゼットの扉に捕まって抵抗する唯斗に不満そうな顔を向けた後、何かを思いついたようにニヤリと笑った。
「ジャンケンに勝ったら使ってあげてもいいよ?」
そう言い終えると同時に「最初はグー」と右手を振る夕奈。唯斗はそれに釣られるように手を動かす。……が、「ポン!」の掛け声で出された手は片方だけだった。
「夕奈、ズルいよ」
「ふふん♪ 作戦勝ちだかんね」
夕奈は彼が乗ってきたのを確認すると、抵抗していた手を離したのをいいことに、ジャンケンよりも引き込みを優先したのである。
何を出すかに思考がシフトしていた唯斗は反応速度が間に合わず、明かりのない扉の中へと閉じ込められてしまった。
「ふふふ、唯斗君にはお仕置が必要みたいだね?」
「お仕置?」
「唯斗君が嫌がることだよ」
「え、5分も夕奈とここに居なきゃいけないの?」
「そんなに私が嫌いなの?!」
「だって気まずいじゃん」
「……それは確かに」
思わず納得してしまった夕奈は、「仕方ないから3分に……って減らすかい!」とノリツッコミをし始める。
色々なキャラをやったせいで、ついに頭がおかしくなったのかもしれない。
「唯斗君が嫌がりそうなことってなんだろ……」
「夕奈、その前にひとつ聞いていい?」
「貯金額以外なら何でも聞いて」
「興味無いから聞かないけど。このクローゼットって僕が入っても良かったの?」
「別にまずいものは入ってないと思うけど」
不思議そうな顔を見る限り、本当に夕奈には心当たりがないのかもしれない。でも、確かに彼女の足元にソレが落ちているのだ。
「この男物のパンツ、見覚えあるんだけど」
「なんでここに?! あ、いや……お、同じ種類なだけじゃないかなー?」
「へぇ。パンツを忘れてくってことは、この部屋で脱いだってことになるけど……」
その言葉にハッとした夕奈は、慌てて首を横に振りながら全力で否定する。
「ちがうちがう! それ私のだから!」
「夕奈がこれを履くの?」
「そうそう、女物と違って履き心地がしっかりしててるんだよね!」
「……そっか、好みはそれぞれだもんね」
唯斗は否定するでも気持ち悪がるでもなく、これまで見た事ないほど優しい微笑みでそう言うと、「じゃあ、僕は帰るよ」と言ってクローゼットから出た。
「…………待って、今のは嘘で……」
呆然と立ち尽くしていた夕奈が、我に返って弁明しようとした時には既に部屋に唯斗は居らず、一階から玄関の扉が閉まる音が聞こえてきた。
「私、間違えたのかな……」
嘘をついて変なやつと思われるのか、本当のことを言って変態だと思われるのか。夕奈にはどちらを選ぶべきだったのか見当もつかない。
しかし、そんな彼女にもたったひとつだけ、確信していることがあった。パンツを移動させた犯人である。
「ねえ、お姉ちゃん」
「夕奈ちゃん、唯斗くんは帰ったの?」
「……うん。お姉ちゃんのせいで、だよ?」
「あれ? もしかしてバレちゃった?」
この後、「てへぺろ♪」とふざけたことを
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