第89話 嫌なやつほど同窓会で覚えていたりする
「……」
「……」
猫耳としっぽを外した
「もうネタ切れ?」
「……」
彼女は
今度は真面目キャラのつもりなのだろうか。
「ちゃんと読めてるの?」
「……」
「夕奈らしくないね」
「……キモいから話しかけないでくれる?」
彼女は怪訝そうな目で唯斗を睨むと、ぷいっと顔を背けてまた本に視線を落とす。どうやら、真面目キャラではなく毒舌キャラのようだ。
普段の夕奈とは正反対なだけに、この目といい口調といい、少し新鮮味があって面白いね。
「ねえ、夕奈」
「聞こえなかった? 話しかけないでって言ったの」
「でも、本読めてないよね?」
「あなたには私の真剣な表情が見えないと言うの?」
「いや、だって本逆さまだよ?」
「…………ほぇ?」
刺すような鋭い視線から一転、いつも通りの間抜けな顔に戻った夕奈は、本を確認して顔を真っ赤にする。
「ち、違うわよ! 私は反対でも読めるの!」
「じゃあ読んでみてよ」
「……ごめんなさい」
案外あっさりと折れてしまった。唯斗としても、初めから夕奈に毒舌は似合わないと分かっていたから、そこまで驚きはしなかったが。
「夕奈、毒舌キャラは頭が良くないと出来ないよ」
「だ、誰がバカや! 唯斗君こそ……えっと……」
もはや体のどこからもキレを失った彼女は、涙目になりながら「あーほあーほ! 唯斗君のちんちくりん!」とよく分からないことを言って出ていってしまう。
「……ぼっちだとか言わなかったあたりは優しいね」
静かになった部屋の中、唯斗は『パリピが馬鹿にするのは、そういうところだと思うけど』と心の中で呟きつつ、また夕奈が戻ってくるまでくつろいでいることにした。
==================================
「……これは?」
「アンケートだよ」
夕奈から手渡された紙を見て、唯斗は首を傾げた。回答項目には、『どれが一番良かったか』だとか『他にどんなのをやって欲しいか』なんてことが書いてある。
「今度は街角アンケートのお姉さんキャラなの?」
「いや、もう普通の夕奈ちゃんだよ」
「夕奈ってこんなんだっけ?」
「おい」
彼女が「思い出せぇぇぇ!」と言いながら頭をポカポカと叩いて来るので、唯斗はその手首を掴んで攻撃を中断させた。
「普通に痛いからやめて」
「……忘れるから悪いんだし」
「冗談だよ、忘れるわけないじゃん」
「ゆ、唯斗君……!」
「こんなの忘れたくても忘れられないよ」
「それ悪口だよね?!」
また攻撃しようと腕に力を入れる夕奈だが、唯斗も負けじと手首を離さない。
しかし、運動神経のいい彼女は腕以外の動きを駆使して、自分より大きな唯斗の体を揺さぶり始めた。
「夕奈、暴れたら危ないよ」
「唯斗君が離してくれればいいじゃん!」
「叩くからダメ」
「ぐぬぬ……かくなる上は……!」
夕奈は最終手段とばかりに唯斗に脚を引っ掛けると、転ばせて自由の身になろうとする。
だが、予想外だったのは彼の体が自分にのしかかるように倒れてきたことだった。
「……ふぇ?」
避けようとはしたものの間に合わず、幸い倒れた先がベッドだったおかげで、2人とも怪我こそ免れた。しかし……。
「っ……唯斗君……?」
「待って、もう少しこのまま……」
押し倒される形で横になった夕奈は、少ししても離れようとしない唯斗に鼓動が早くなっていく。
もちろん唯斗にその気はなく、単にベッドに足の指をぶつけた痛みで動けないでいるだけだ。
しかし、そんなことは夕奈には分かるはずもなく、彼女は掴まれ続けている手首から感じる拘束感によって、歪んだ何かを覚え始めているのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます