第88話 変なものは触ってみたくなる
次に部屋に入ってきた
「ねこ?」
「ゆ、ゆうにゃだにゃ……」
「なるほどね」
演技ではなく恥じる反応を見る限り、この猫耳としっぽは
夕奈の明るい茶色の髪にも色が似ていて、本当に耳としっぽが生えてきたように見えるほど自然だ。
「耳はカチューシャかな? しっぽはどうやって付いてるの?」
「だ、だめ! 触らないで!」
「語尾、忘れてるよ?」
「っ……さ、触らないで欲しいにゃ……」
「よく出来ました。まあ、触るけど」
拒むゆうにゃの手を払って強引にしっぽを掴んでみると、彼女は「んにゃぁぁぁぁ!」と声を上げて床に倒れてしまった。
「ゆうにゃ、大丈夫?」
「さ、触らないでって言ったにゃ……」
「何が起こってるの?」
「しっぽを握ると……んにゃぁぁぁぁ! はぁはぁ、話してる途中に触るにゃ!」
「ごめん、面白くなっちゃって」
ゆうにゃが言うには、このしっぽは腰に巻いたベルトから伸びているらしい。
しっぽには常に電気が流れている銅線が2本入っていて、握ることで銅線同士が触れ合い、ベルト本体のスイッチが入るという仕組みだ。
「スイッチが入ると電気が流れてきて、体がビリビリするんだね」
「そうにゃ、だからあまり……んにゃぁぁぁぁ! さ、触らにゃいで……」
「ぷっ、これ楽しいかも」
ニヤニヤと笑う唯斗から危険なオーラを感じたゆうにゃは、顔を青くして今すぐに部屋から逃げようとする。しかし……。
「ひ、開かにゃい?!」
ドアノブは回るのに、押しても引いてもドアが開かないのだ。思い当たる理由はひとつしかない。
「お姉ちゃん、そこにいるにゃ?!」
『もちろんいるよ?』
「ドア開けさせて! 邪魔しにゃいで!」
『ふふふ、可愛いからダメ♪』
姉が意地悪で向こう側から扉を押さえているのだ。分かっていても言うことを聞いてもらえない以上、ゆうにゃに逃げ出す手段はない。
「これまで僕の邪魔をしてきたお返しだよ」
「ちょ、ちょっと待つにゃ! 落ち着くにゃ!」
彼女はバッと手を前に出して止まれのアクションをすると、唯斗を説得する方向へと話を持っていくことにした。
「これまでのことは謝る! 許して欲しいにゃ!」
「言葉だけじゃ、僕も満足しないよ」
「か、体で払えと言うのにゃ?!」
「まあ、そういうことになるのかな」
唯斗はそう言うと、怯えるゆうにゃを部屋の角まで追い詰め、逃げられないように壁に手をつく。
彼女はドキドキ半分恐怖半分と言った表情で唯斗の顔を見つめると、「わ、私は屈しないにゃ!」と強がって見せた。
「私の体は好きにしていいにゃ! でも、心までは奪わせないにゃよ!」
「はいはい、じゃあ好きにさせてもらうよ」
唯斗は空いている片方の手を伸ばすと、ゆうにゃの体――――――――――ではなく、しっぽを掴んだ。
「んにゃぁぁぁぁ!」
「好きなだけ体を張って楽しませて」
「そ、そっちの意味だったにゃ?!」
「逆にどの意味だと思ったの」
「べ、別に……んにゃぁぁぁぁ! も、もうやめてくれにゃ……」
その後、唯斗によるゆうにゃいじめは10分ほど続き、ようやく解放された時には疲れと刺激のせいで、上手く歩けなくなってしまっていた。
「も、もう許せにゃ……」
「十分楽しんだから戻っていいよ」
「た、助かったにゃぁ……」
ゆうにゃはフラフラと立ち上がると、よろよろとした足取りでドアへと向かう。
しかし、彼女はドアノブに手を伸ばした瞬間に後ろへよろめくと、転ぶか転ばないかギリギリの体勢のままベッドまで後ずさってしまった。
「あ、危なかった…………んにゃ?」
ホッとしたのも束の間、転んだ勢いで上がっていた脚を床につけると同時に、ベッドと彼女のお尻とに挟まれたしっぽから合図が送り出される。
あのしっぽの仕組み上、握るという行為に限らず、圧迫されるだけで電流が流れてしまうのだ。
「んにゃぁぁぁぁ!」
自分で自分を苦しめる無限地獄。体を動かしたくても、電気に筋肉を痙攣させられて上手く動けないらしかった。
「……お、お助けにゃぁぁぁぁ!」
「僕にやられるのとどっちが辛い?」
「こ、こっちの方が辛いにゃ!」
「そっか。じゃあ、そのままで反省してて」
「んにゃぁぁぁぁ?!」
結局、ゆうにゃのビリビリ地獄はベルトの電池が切れる20分後まで続いたそうな。
「はぁはぁ……もう少しで新しい何かが見えるところだったにゃ……」
「陽葵さんから換えの電池貰ってきたけど」
「も、もうご勘弁にゃぁぁぁぁ!」
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