第85話 お姉さんは恋愛アドバイザー(自称)
「うへへ……特殊アイテムゲットだぜぇ……♪」
夜、
「どこに保管しようかなー」
キョロキョロと部屋を見回してみると、まず最初にクローゼットが目に入る。しかし、ここは姉が服を勝手に借りていくことがあるため危険だ。
次に目に付いたのは本棚の裏。ここなら見つかる可能性は低い。しかし、取り出しづらいという難点がある。
「となれば、もうここしか……」
夕奈は勉強机の引き出しを開け、その奥に畳んだパンツを入れる。これなら見つかる可能性も低い上にすぐに取り出せるだろう。
「さすが夕奈ちゃん、完璧ですなー♪」
「何が完璧なの?」
「ふぇっ?! お、お姉ちゃん?!」
耳元で囁かれた声で反射的に振り返ると、そこには夕奈の姉である
彼女は夕奈にグイッと顔を近付けると、「何を隠したのかな?」と聞きながらにんまりと口角を上げる。
「べ、別に何も隠してないし!」
「お姉ちゃん、後ろで見てたんだよ?」
「い、いつから……?」
「夕奈ちゃんがパンツの匂いを嗅いでるところから」
「いや、してないしてない! 記憶捏造しないで?!」
慌てたようにブンブンと首を振る妹の姿を見て、陽葵は「やっぱりパンツだったんだ?」と意地悪な笑みを浮かべた。
「か、カマかけられてたの?」
「夕奈ちゃんの背中で何を持ってるのかは見えなかったからね♪」
「くそぉぉぉぉぉ!」
手のひらの上で踊らされてしまった夕奈は、ガンッと机におでこをぶつけると、自白してしまった恥ずかしさでそのまま動かなくなる。
そんな彼女をひょいと押しのけ、引き出しからパンツを取り出した陽葵は、それをじっくりと眺めてから夕奈へ視線を戻した。
「男物のパンツかな?」
「そ、それには深いわけがありまして……」
「そう言えばこの前、家に男が来てたね?」
「男って言うなし! ただの友達だから!」
「じゃあ、そのパンツは誰の?」
「そ、その友達のだけど」
「夕奈、あなたまさか……」
姉から向けられた意味深な視線に、夕奈の背筋がピシッと伸びる。まさか、自分のした事がバレてしまったのでは――――――――――。
「ち、違うよ? 私は盗んでなんか……」
「この部屋でやったの?」
「……ほぇ?」
やったって何を? 確かに作戦会議はやったけど、他にしたことなんて何も―――――――――。
予想外の質問に混乱していると、陽葵が安心したようにため息をついた。
「その反応だと違うのかな。良かった、夕奈ちゃんの初めてがまだみたいで」
「そ、そういう意味?! 妹になんてこと言うのさ!」
「夕奈ちゃんこそ、こんなに可愛いのにどうして彼氏を作って楽しまないの?」
「そ、それは……」
夕奈には彼氏を作るチャンスはいくらでもあった。というか、夏休みに入る前もラブレターが机に入っていることもしばしば。
いわゆる勝ち組の存在であるにも関わらず、高校に入ってからの交際回数はゼロ回のままなのだ。
「まさかとは思うけど、そのパンツの持ち主のことが好きだったりして……」
「ななななな何言っちゃってんの?! 唯斗君のことが好き? いや、ないないない!」
「嘘が下手って残酷ね」
陽葵は呆れたようにそう呟くと、夕奈に「夏祭り、その子を誘う予定は?」と聞いてみる。
「ま、まあ、夕奈ちゃん手が早いからもう誘っちゃったって言うかー?」
「手が早いなら、さっさと既成事実作っちゃえばいいのに」
「既成事実?」
「我が妹ながら、この無知さには呆れるよ……」
陽葵は深いため息をつくと、妹の耳元で「彼を襲っちゃうのよ」と囁いた。
その言葉に夕奈は顔を真っ赤にすると、「んなことできるかい!」と姉の肩を押して遠ざける。
「純粋なのは可愛いけど、そんなんじゃ他の子に取られちゃうよ?」
「そ、それはだめだけど……」
しゅんと落ち込む夕奈に、陽葵は密かに一瞬だけニヤリと笑うと、すぐに優しいお姉ちゃんの表情に戻って愛する妹の肩に手を添えた。
「お姉ちゃんの言う通りにすれば大丈夫だよ?」
「……ほんと?」
「経験豊富な私に任せんしゃい!」
ドンと胸を叩く姉にキラキラと瞳を輝かせる妹。陽葵は心の中で『我が妹ながらチョロい』とほくそ笑みつつ、アドバイスを開始するのであった。
「じゃあ、とりあえず彼を家に呼ぼっか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます