第84話 目標を見据えることが大事
自分の写った写真を握り、まさかの収穫に口元の緩みを抑えきれない
「まさか初めからドストライクだったとはね……」
小さくガッツポーズをした彼女は、
そして、こっそりとベッドの中へ忍び込んだ。写真よりも実物を見て欲しいという、彼女なりの感情表現である。
「実物なら立体だよ? 特に胸が、特に胸が!」
大事なことなので2回言っておいた。この証拠を見つけてしまった以上は、夕奈もチャンスを逃すわけにはいかない。
唯斗に素直になってもらい、たくさん甘えてもらうのだ。そしてゆくゆくは恋人関係に……。
「こりゃ、
「ひとりで何言ってるの?」
「ひぇっ?!」
突然の声に驚いた夕奈が「い、いつから起きてたの?!」と聞くと、唯斗は「クローゼットを開けた頃かな」と答えた。
「もはや寝てないじゃん!」
「うるさいから起きたんだよ」
「夕奈ちゃんの何がやかましいっちゅーねん」
「存在」
「私にどうしろと?!」
困り顔になる彼女に「存在感消してよ」と言うと、夕奈は「いやぁ、世界を賑わす美少女オーラには困っちゃうなー♪」と後ろ頭をかく。
唯斗からすれば、いくら顔が良くても自分で言ってしまえばそれまでである。見ているこっちが恥ずかしくなりそうだ。
「ところで、どうしてここにいるの?」
「唯斗君が喜ぶと思ったから!」
悪びれる様子も反省の欠片も見当たらない、完全に自分の考えが正しいと信じて疑っていない満面の笑み。
彼はそれを見て思わず頭を抱えた。こういうのが一番めんどくさいのだ。
「勝手にベッドに入らないでよ」
「本当は夕奈ちゃん大好きなくせにー♪」
「そんなわけないじゃん」
唯斗が「何言ってんだこいつ」という目で夕奈を見ると、彼女は「知ってるんだよ? 唯斗君がこれを隠してたの!」とポケットから写真を取り出して見せた。
「あ、それどこに落ちてたの?」
「とぼけても無駄だい!」
「どこにあったの?」
「ベッドの下でふ……」
両側から頬をつねると、素直に事実を吐いてくれる。唯斗は夕奈の新しい操り方が見つかったなぁなんて思いつつ、その手から写真を取り上げた。
「なっ……実物を前にして写真の方が良いと?!」
「何言ってるの。これは
「なぜ我が弟子がそのようなことを……」
「疑うなら本人に聞いてあげようか?」
唯斗がこういうのなら、本当にそうなのだろう。夕奈は心の中でそう確信すると、気付きたくなかった真実について聞いてみることにした。
「じゃあ写真に頬ずりは?」
「するわけないじゃん」
「私のことは?」
「好きじゃない」
「本当は?」
「嫌い」
「ぐふっ……」
オブラートに包まれていない言葉にノックアウトされた彼女は、胸を押さえたままベッドから転がり落ちてしまう。
「大丈夫?」
「唯斗君に……嫌われた……」
「安心して、初対面の時と変わってないから」
「カイロ昇格の件は?」
「神聖なベッドを穢したから取り消し」
「くっそぉぉぉぉぉ!」
その後、しばらく床で寝転がっていた夕奈は、「弟子に癒してもらうもんねーだ!」と部屋を出ていったのだが――――――――――。
「天音、例の写真見つかったよ」
「わぁ、本当に師匠の風呂上がりだ!」
唯斗が写真を手渡すと、いつか通販熱帯雨林で注文していた空気で膨らむサンドバッグを引きずってきた。
「天音ちゃん、何するの?」
「ネットでね、超えたい人の写真を見ながら運動するといいって見たんだぁ♪」
天音は楽しそうに笑いながら、写真をサンドバッグの真ん中に貼る。そして、「私、師匠より強くなる!」と宣言して思いっきりパンチを叩き込んだ。
「天音、いいストレートだね」
「えへへ、師匠の写真のおかげかな?」
それから10分ほど、「師匠より速く!」「師匠より細く!」「師匠より賢く……ってそれはもう十分かな」とサンドバッグをボコボコにし続けた結果……。
「やめてー! 私のライフはもうゼロよ!」
シワシワになった写真を慌てて剥がした夕奈は、それを我が子のように抱きしめながら涙をこぼしたのだった。
「うぅ、弟子怖い……」
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