隣の席の美少女が何故か憐れむような目でこちらを見ているけど、僕には関係がないのでとりあえず寝る ―――ひとりが好きなぼっちだっているんですよ?―――
第28話 質問への答えは当たり障りないものが良かったりする
第28話 質問への答えは当たり障りないものが良かったりする
買い物が全て終わり、遅めの昼食もササッと済ませた一行は、帰りの電車に揺られていた。
「やっぱりモールは楽しいな」
「また来たいわね〜♪」
「それな」
途中から乗り換えが必要らしい3人は途中で別れ、
荷物持ちがよほど疲れたのか、夕奈は唯斗の肩に頭を預けて爆睡。その寝顔を花音は微笑ましそうに眺めていた。
「いいですね、なかなか絵になる2人組です♪」
「僕にノイズキャンセリングの機能があればピッタリだったかもね」
「夕奈ちゃんの声を消しちゃうなんて勿体ないですよ?告白したい男の子も多いみたいですし」
「僕は興味無いから」
唯斗がそう言うと、「まあ、私は今のままの方が都合がいいですけど」と花音は笑って見せる。
「唯斗さんが友達の彼氏さんになっちゃうと、別の意味で緊張しちゃいそうですし……」という言葉も遅れて追加された。
「ありえないから安心していいよ。そもそも、ひとりが好きだから彼女を欲しいとも思わないし」
「じゃあ、それを理解した上で質問してもいいですか?」
「ひとつだけね」
人差し指を立てて見せる唯斗に、「はい!」と元気よく返事をした花音は、電車の中だということを思い出したのか慌てて口を抑えると、彼の耳元に口を寄せて囁くような声で聞いた。
「今日のメンバーの中で、付き合うとしたら誰がいいですか?」
「そんなこと考えたこともないからなぁ。すぐには分からないかも」
「適当でいいんですよ、適当で!」
花音はそう言いながら、唯斗を挟んで反対側へと視線を送る。夕奈が起きたのかと思って振り向いてみるが、彼女は相変わらず爆睡中だ。
「もし決められないなら、夕奈ちゃんって答えてくださいね」
「それは無いかな」
「2人で迷った時は、夕奈ちゃんって答えると公平ですし!」
「無理矢理にでも迷わないようにするよ」
「誰か決めた人がいても、嘘でいいので夕奈ちゃんと――――――――――――」
「死んでも嫌だね」
唯斗がそう答えるのと同時に、後頭部をゴツンと誰かに殴られた。振り向いてみるも、夕奈は眠っているし近くに他の人はいない。
もしかすると、『死んでも』なんて言ったから、電車の幽霊が怒ったのだろうか。実際、死ぬくらいなら夕奈だって答えるけど。
一応心の中で幽霊に謝っておきつつ、唯斗は「こまるかな」と答えた。背後で何かがビクッと動いた気がするけど気にしないでおこう。
「それはどうしてですか?」
「一番静かだから」
「怒らせると怖いですけどね」
「……確かに」
しかし、身長のことさえ触れなければすごく平穏な日々が送れそうではある。
唯斗も異性の身長を気にするタイプではないし、『付き合うのなら』という仮定の話であれば、5人の中では一番マシだと思えた。
「あ、私はここで降りるので」
「そっか。また学校で」
「はい!学校で!」
停車した駅で荷物を抱えて降りていく花音。そのまま去っていくかと思ったが、彼女は何かを思い出したようにドアのところまで戻ってくると、車両の外から声をかけてくる。
「もうひとつだけ答えてもらえませんか?」
「じゃあ特別にね」
唯斗が了承の意を示すと同時に、ドアは空気の抜けるような音を立てて閉まってしまう。
花音はわたわたと慌てながら開いていた窓のところへ移動すると、若干早口で聞いた。
「友達として聞きます!今日は楽しかったですか?」
唯斗が返事をする暇もなく電車は走り出し、彼女の姿は景色と共に左へと流れ始める。
自分が今日楽しんでいたのか。そう問いかけても中々答えが返ってこなかった唯斗の視界から、ついに花音が消えた。
何故かその質問への答えは、必ず出さなくてはならない気がした彼は足早に窓へと歩み寄ると、不確かな心情のまま「楽しかった」と口にする。
「へえ、楽しかったんだ?」
きっともう花音には聞こえていないであろう声。それを拾い上げ、ニタニタとからかうような笑顔を浮かべる者が一人。
「夕奈ちゃん、嬉しいなー♪」
「……やっぱりそうでもなかったかも」
一時の焦燥感は、人を盲目にする。
唯斗が楽しかったと本心から言える日が来るのは、まだまだ先のことになる、かもしれない。
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