第23話 甘味は正義!
結論から言うと、映画はすごく良かった。
途中途中で記憶が抜け落ちている部分はあるものの、絵がすごく綺麗で睡魔の塊である
「いやぁ、やっぱ最近のアニメ映画は綺麗だな」
「実写かと思っちゃったわ〜♪」
「それな」
先に映画館を出ていく3人を追いかけるように、
しかし、後ろに座っていた勢に比べて、こちらの3人組はどことなく雰囲気が違っていた。
「うう、寝ちゃってましたぁ……」
「爆睡してたもんねー」
「み、見てたんですか?! は、恥ずかしいです……」
途中から爆睡していた花音、ところどころ見ていない唯斗、そして隣に座っていた人の横顔ばかり見ていた夕奈だ。
もちろん、夕奈が見ていたのは花音だけではない。唯斗の横顔も上映時間の八割くらいは見つめていただろう。
暗闇で見る異性の顔は、いつもより魅力的に見えるものなのである。
「いやぁ、良かったよー」
「具体的にどこが良かったんですか?」
「鼻のラインかな」
「……何の話です?」
困惑する花音の質問には答えず、ちょっぴり上機嫌に前の3人へ駆け寄る夕奈。
何やら彼女らへ礼を言っているみたいだが、唯斗と花音にはさっぱりなんのことやらだ。
「それじゃ、次はどこに行こうか」
「甘いものが食べたいわ〜♪」
「わかる」
ショッピングモールで甘いものといえば、定番はパフェやパンケーキになる。常連らしい彼女らがいいお店を知っているということで、唯斗は後ろを着いていくことにした。
「ここ、美味しいんだよー!」
「へぇ、どんな風に美味しいの?」
「甘い!」
「角砂糖で十分だね」
そんな会話をしながら、またも夕奈の隣に座らされた唯斗は、向かい側のソファー席に腰かけている3人を順番に眺める。
彼女らは、どうしても夕奈と隣になりたくないらしい。となると、隣ではなにか不利益があるに違いない。唯斗はそれを警戒しているのである。
「唯斗さんは何にしますか?」
「花音のおすすめは?」
「夕奈ちゃんはこれ!」
「聞いてない。花音はどれにするの?」
「わ、私はいつもこれですね」
彼女が指差したのはチョコバナナパンケーキ。これなら僕でも食べれそうだと判断した唯斗は、「僕も同じのにしようかな」と頷いた。
「夕奈ちゃんはいちごパンケーキの方がいいと思うけどなー?」
「夕奈のおすすめはちょっと……」
「いちごじゃなくて私がダメなの?! 私が何をしたって言うのさ!」
「僕の隣に座った」
「なら立ち食いしてやんよ!」
「迷惑だからやめて」
「私はどうすれば許されるんじゃ?!」
唯斗が「黙れば許す」と答えてあげると、彼女は「りょ!」と返事をしてお口チャック。これで少しはマシになったね。
まあ、数分後にパンケーキが来た瞬間、チャックの金具吹っ飛んだみたいだけど。
「うまそー!」
「やっぱこれだよな」
「甘いものに限るわ〜♪」
「それな」
女子4人はパシャパシャと写真を撮り、それが終わると各々がパンケーキを食べ始める。
花音もスマホを出すところまではいったものの、上手く撮れなかったのか、しゅんと肩を落として食べ始めた。
「あ、おいしい」
「でしょー!」
思ったよりも甘さが控えめですごく食べやすい。ここの店長はなかなかやるね。なぜか夕奈がドヤ顔しているのは腹立つけど。
「こっちも美味しいよ?」
「へぇ」
「食べてみる?」
「どうせならもらおうかな」
1口サイズに切ったものを、フォークで刺して差し出してくれる夕奈。だが、唯斗はそれをフェイントを挟んでかわすと、自分の持っていたナイフで切り分けたものを口に運んだ。
「うん、おいしい」
「……そりゃようござんした」
何故か不満そうに唇をとんがらせている夕奈を見て、唯斗は首を傾げる。
彼女からすれば良心からの行動だったのかもしれないが、普通に考えれば自分の使うフォークを誰かの口に運ぶのは嫌なはず。
そう考えて唯斗は自分のを使ったのだ。しかし、逆に拒絶されたと感じて嫌な思いをさせた可能性もある。
パンケーキが美味しかったのは真実だし、もらっておいて悲しさを置き土産していくのも、何だか申し訳ない気がした。
唯斗は心の中で頷くと、夕奈のフォークにかぶりつく。丁寧に乗せられたいちごの酸っぱさとクリームの甘さが、絶妙な相乗効果を生み出していた。
「食べた……食べたよ!」
「ペットじゃないんだから、そんな喜ばなくてもいいでしょ」
何やら嬉しそうに手を叩く彼女を横目で見つつ、もう満足してしまった腹と相談した結果、唯斗は目の前にある皿を夕奈の方へとスライドさせた。
「二口もらっちゃったし、お詫びに全部あげるよ」
「いらないから押し付けただけだよね?!」
「……ばれたか」
まあ、どう言われようと唯斗はもう甘さノーサンキューだ。それに引替え、まだまだ行けるぜ状態の夕奈なら、もうひと皿くらいいけるだろう。
「仕方ないなー!夕奈ちゃんが食べてあげよう」
「あ、僕のフォークは邪魔だよね」
「ああ……」
喜んだり残念な顔をしたり、相変わらず表情が騒がしい人だ。唯斗はそう思いながら、夕奈が使おうしたフォークを取って、食べ終わったらしい花音の皿の上に置いた。
「くそぉ……こうなったら、カロリーなんて気にせずやけ食いじゃぁぁ!」
「「「おい」」」
「……へ?」
その後、『カロリー』という単語を口にしたことについて、夕奈が3人からめちゃくちゃ怒られていたのはまた別のお話。
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