第22話 目的のために手段は選ばない

「荷物になるものを買う前に映画見るか」


 瑞希みずきの言葉に全員が頷き、映画館のある最上階までエスカレーターで上がっていく。

 唯斗ゆいとが「エレベーター使わないの?」と聞いたら、「私たちが乗ったら、本当に必要な人が乗りづらくなるだろ」と返された。

 さすがは見た目がクールなだけあって、中身までかっこいい人だ。

 そんな感じで感心してるうちに最上階へと着いた一行は、現在上映中の映画のタイトルを眺めながら首を捻る。


「私はこのミリタリー系の洋画が観たいな」

「ドラマも見た事あるこれがいいわ〜♪」

「アニメ」


 例の3人組はそれぞれ別のものが観たいらしく、早速バチバチと火花を散らしている。唯斗はバラければいいのにと思うが、彼女らは全員で同じものにしたいらしい。


夕奈ゆうなちゃんはこの恋愛映画かなー!」

「わ、私もそれです」


 夕奈と花音かのんは意見が一致したらしく、2人でなにやら喜んでいる。


小田原おだわらは何がいいんだ?」

「僕はなんでもいいかな」


 唯斗にとって映画館は睡眠場所でしかない。お金を払って寝るのだから、勿体無いったらありゃしない。それ故に足を運ぶことがほぼなかったのだ。


「なんでもいいが一番ダメなんだよな」

「おだっちの趣味、気になる〜♪」

「決めて」


 3人に加えて、夕奈までも何かを求めるように唯斗を見つめる。花音はなんでもいいようで、「キャラメル……いや、こしょうかな」とポップコーンの味付けについて悩んでいた。


「じゃあ、これでいいや」

「……え?」

「おだっちってそういう感じ〜?」

「まじか」


 適当に夕奈と花音が見ていたポスターを指差すと、何故か3人から引いた目で見られた。


「それ、BL映画だぞ?」

「適当に選んだよね〜」

「それな」


 なるほど、確かにいきなりそんなことをカミングアウトされたら、僕でも同じような顔をするだろう。

 そう納得した唯斗は、「やっぱりこれ」と隣のポスターを指差した。アニメ映画みたいだけど、男女が写っているしおそらくノーマルなやつだろう。


「ナイス」


 唯斗がこまるからリアルいいねを貰ったところで、票が同数になってしまった映画同士で最終対決をしなければならない。

 片やBL映画、片や古山ふるやま まこと監督の最新作アニメ映画。もはや、決まったも同然だった。


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「ちぇ、イケメン俳優見たかったのになー!」

「負けたからしょうがないですよ」


 2対4でアニメ映画がより多くの票を集め、一行はそちらを見ることになった。それでも文句を言っている夕奈を、花音がまあまあとなだめてくれている。

 しかし、瑞希の次の一言で夕奈は目の色を変えた。


「じゃあ、席順を決めるか」

「私が真ん中!」

「落ち着け、くじ引きで決めるから」

「ふふふ、夕奈ちゃんの今のくじ運は最強じゃぞ?」


 それを言えば、唯斗のくじ運は最悪である。彼は自分の右手を眺めながらため息をつくと、せめてもの抵抗として左手で引くことにした。


「どれにしようかなー♪」

「あ、ちょっと待て。間違えて2列に別れて買っちゃったみたいだ」

「3席ずつってこと〜?」

「そうだ。仕方ない、責任を取って私は後ろ側に座ることにする」


 瑞希はそう言ってチケットを1枚抜き取る。すると、まるで示し合わせていたかのように、風花ふうかとこまるも「責任はみんなで取るわ〜」「それな」と後ろの席のを取った。


「夕奈は真ん中がいいって言ってたよな。お詫びに前の席の真ん中をやるよ」

「本当にいいのかい?!」

「おう、楽しめよ」


 ニコニコ笑顔でチケットを手渡す瑞希。彼女が残り2枚になった束を差し出した瞬間、唯斗は全てを察した。


「……どっちを選んでも夕奈の隣」


 クールフェイスに張り付いたような笑顔が、唯斗にはとても悪魔的なものに見えて仕方がなかった。

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