第21話 良心ほどお節介

「おまたせ」


 唯斗ゆいとがそう言ってリビングに入ると、振り返った夕奈ゆうなたちは揃って「おお〜」と声を漏らした。


「なかなかいいじゃねぇか」

「男前ね〜♪」

「それな」


 さすがは自称ファッションコーディネーター天音あまねことアマネルと名乗っていただけの事はあるらしい。

 唯斗はこの時初めて、妹の秘められた才能に気がついた……かもしれない。


「ほら、夕奈もなんか言えよ」

「ええっと……夕奈ちゃんの次にイケてる、かな……?」

「なんで疑問形なの〜?」


 唯斗の目から見ても夕奈はオシャレな方だし、そんな彼女に認められたのなら、悪い格好では無いのだろう。花音かのんも静かに親指を立ててくれているし。


「そんじゃ行くか……って、目的地決まってないんだよな」

「ここはカノちゃんが決めるべきだと思うな〜♪」

「それな」


 指名された花音は「わ、私ですか?!」としばらくオドオドしていたが、もともと行先はある程度決めていたらしく、「ショッピングモールに行きましょう!」とビシッと決めた。


「いいねー、ショプモ!」

「夕奈、その略し方は違うと思うぞ」

「モールだよね〜♪」

「それな」

「べ、別にどっちでもいいの!そうだよね、カノちゃん!」

「えっ?! は、はい! 私もそう思います……」


 明らかに心にもないであろう返事に、「ほら!」とドヤ顔をしてみせる夕奈。すごくお花畑な人間である。

 唯斗はそんな彼女を眺めながら、『間違った世界って、こうやって作られるんだろうなぁ』と心の中で呟いた。


「じゃあ、行こっか」

「おう」

「何買おうかな〜♪」

「コスメ」

「男の子がいるとこでそれは遠慮するかも〜」


 歩き出す唯斗の後ろに瑞希、風花、こまるが着いてくる形で玄関へと向かう。


「ピンモって略し方も良くない?」

「そ、そうですね」


 さらにその後ろから、未だにショッピングモールの略し方について考えている夕奈と、優しさゆえに違うと言えない花音が着いてくる。

 唯斗にとって、こんなにも大人数で出かけることは人生で初めてだから、自分がどの位置を歩けばいいのかすら分からない。

 が、とりあえず前にいれば置いていかれることだけはないという考えのもと、先行して歩んでいた。


「映画観るのもいいよな」

「わかる〜」

「……取られた」


 電車の中でそんな話をする3人の声をバックグラウンドに、椅子に座りながらウトウトする唯斗。

 そんな彼を寝かせまいと必死に話かけてくるのは、夕奈……ではなく花音だった。


「ゆ、唯斗さんはモールにはよく行きますか?」

「年に1回、行くか行かないかくらいかな」

「へ、へぇー」


 まあ、コミュ障&話す気がないやつの組み合わせだから話が続くはずもない。そこでここぞとばかりに夕奈が乱入してきた。


「私は毎月行ってるよ!」

「暇なんだね」

「うっ、暇じゃないやい!忙しいやい!」

「放課後、誘われないのに?」

「ぐふっ……」


 事実というストレートパンチでノックアウト。夕奈は深刻な精神的ダメージに耐えきれず、隣に座るこまるの膝の上へと倒れ込む。


「私たちが夕奈を誘わないのは、嫌いだからとかうるさいからとかじゃないぞ?」

「そうそう、金欠だって言ってたからだよね〜」

「それな」


 なるほど、寂しい女と言っていたのは本人の勘違いで、本当は優しい友人たちの気遣いゆえだったと。


「みんなぁぁぁ!」

「あと、遊びに行くと必ずパフェ食べるしな」

「カロリーカロリーってうるさいもんね〜」

「わかる」

「み、みんなぁ……」


 喜び一色だった表情が、一瞬で悲しみ一色に変わる。これ、見てるだけなら飽きないね。


「私はみんなの体を気にして……」

「私は運動してるし」

「私は太らない体質だよ〜」

「お節介」

「くそぉぉぉぉっ!」


 仲間を失った夕奈は藁にもすがる思いで花音の方を見ると、「カノちゃんはカロリー気にするよね?」と肩を掴んで揺らす。

 もはやカロリーおばけと化した夕奈の精神力は、吹いて消えるほどしか残っていない。それでも、勇気を出した花音は、ここで否定という技を覚えた。


「私は……美味しければいい、です」

「うう……」


 楽しい楽しいお出かけ中の電車の中、しばらくすすり泣く声が止まなかった。

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