第12話 勝負に勝って試合に負けるのは悲しい
それから約2週間後、勝負はついに決着の日を迎えた。
放課後、教室に残った
「唯斗君、今のうちに負けを認めた方がいいよ」
「夕奈に負ける気はしないけど」
「言ってくれるねぇー」
やけに自信に満ち溢れている夕奈を見て、唯斗はまさかと首を振った。
彼女によると、普段通りなら英語は大の苦手でその他は平均より少し下くらいらしい。
苦手がひとつあれば、この勝負形式では大きく不利になるから、夕奈にとっては挑まない方がいい勝負だったのだ。
「僕は一番高いのが英語で95点。低いのが理科で91点」
「おお、さすがは唯斗君だねー」
夕奈は音の出ない拍手をしてみせると、鼻につくドヤ顔で自分の解答用紙をめくった。
そこに書かれた数字を見た唯斗は、二つの意味で目を丸くした。
「……低すぎない?」
「う、うるさいなー!勝ちに変わりはないでしょ!」
高いのが国語で4点、低いのが英語で2点。普通の高校生が取っていい点数でないことは明白だった。
しかも、英語なんて合っているのが1問だけ。「よく留年しなかったね」と聞きたくなるのも無理はない。
「とにかく勝ったのは私!唯斗君は言いなりなんだからね!」
「僕が言い出したことだから仕方ないか。いいよ、何でも好きに使って」
「ふふふ、本当に好きにしちゃうよー?じゃあ、まずは……」
夕奈が悪い顔を浮かべた瞬間、教室のドアがガラッと開かれた。入ってきたのはこのクラスで英語を教えている先生だ。若くて綺麗だと男子生徒から人気らしい。
「
「先生?どうかしましたか?」
「採点が間違っているところが見つかったの」
「え、上がるんですか?!」
「いいえ、下がるのよ」
一瞬嬉しそうな顔を見せた夕奈は、書き直された点数を見て床に崩れ落ちた。英語―――――0点。
「ごめんなさいね」
「…………」
頭を下げてから去っていく先生、放心状態の夕奈。さすがの唯斗でもこの空気には耐えられなかったのだろう。
何かしら励ましてあげようと、少し遠慮しがちに声をかけた。
「まあ、マルの数は変わってないし……」
「それはゼロだよ!うわぁぁぁん!」
「……どんまい」
結局、点数の変更によって同点になった勝負の報酬は、お互いになしということになってしまった。
唯斗からすれば、点数を考慮して自分の勝ちだと言えなくもないけれど、それを言うと夕奈にトドメを刺してしまいそうな気がしたからやめておいた。
「夕奈、真面目に生まれ変わっておいでよ」
翌朝、あまりの点数の低さに、校長室へと呼び出された夕奈に届かないであろう祈りを捧げつつ、久しぶりに訪れた静かな窓際生活を満喫する唯斗であった。
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