第11話 勝てる勝負しか挑まない
今日はすごく気持ちがいい天気だ。心もポカポカ、机くんもポカポカ、僕の背中もポカポカ……。
「……
当たりどころによってはマッサージみたいで気持ちいいけど、基本的に睡眠の邪魔でしかないから迷惑だよ。
「唯斗君が置いて帰るから悪いんだよ!」
「図書館に行った日のこと?」
「そうだよ!私が怒られて落ち込んでたのに、励ましのメッセージもくれないなんて!」
夕奈は「まったく……」と頬を膨らませているけど、唯斗からすれば怒られることをする方が悪いのであって、自分が文句を言われる筋合いはないはず。
けれど、言葉を返せば面倒なことになるのはわかっているので、彼は憐れむような目を向けてあげてから、再度机に突っ伏した。
「ねえ、うんともすんとも言ったらどうなの!」
「すん」
「そういう意味じゃないんですけど?!」
今更ながらに唯斗は思った。こんなにもうるさいのが隣なら窓際最後列でも意味ないな、と。
今度の席替えはテスト返しが終わってからになるだろう。それまでこれと隣……地獄だ。
「……いいこと思いついた」
「え、なになに?面白いこと?」
「でも面倒臭いな」
「なんでやねん!あ、今のツッコミ良くなかった?」
「……こっちの方が面倒臭いか」
唯斗は夕日の温もりに浸っていたいと告げる身体にムチを打ち、気だるそうに夕奈の方を向いた。
「勝負しようよ」
「なんの勝負?ゲームか!ゲームなら負けない自信あるよ!」
「テストの点数」
「ゆ、夕奈ちゃん、急にお腹が……」
「もしかして、せいr……」
「わーわーっ!昨日食べた肉が生焼けだったのかなぁ!もう治ったからおっけー!」
「……急にどうしたの」
「お前のせいじゃ」
また背中を叩かれた。人が嫌がることはしちゃダメだって、小学校で習わなかったのかな。
「それで、やるの?」
「……ルールを聞いてから決める」
「仕方ないなぁ」
唯斗は小さくため息をつくと、机に頬をつけた状態のままノートを開いてルールを書いていく。
途中で「もう少しやる気出そうよ」と言われたけれど気にしない。人は人、自分は自分だからね。
「ルールは簡単、全教科の平均点で……」
「ちょっと待った!それじゃ、夕奈ちゃんが不利なんですけど!」
「自業自得。平均点で高い方が……」
「話を聞けやおら」
せっかく絶対に勝てる勝負にしてやろうと思ったのに、変なところで頭を使いやがって……。
唯斗は不満そうな目で夕奈を見つめつつ、ノートに書いたルールを一旦消す。
「なら、一番点数が高かった科目と低かった科目の差が小さい方の勝ちにしようか」
「……致し方ない、それで我慢してやろう!」
どうして偉そうなのかは無視するとして、バカな夕奈はこのルールでも彼の方が有利なことに気付いてないらしい。
平均点で勝てないのは苦手な科目があるから。唯斗はどれもそこそこできるため、いいやつも悪いやつも差はほとんど出ないのだ。
変に簡単なテストが出てこない限りは、唯斗の勝ちはほぼ確実だろう。
「勝ったら何が貰えるの?」
「じゃあ、負けた方は勝った方と一生話さないってことで」
「それ、静かさを求めてるだけだよね?」
「……ちっ」
「この人また舌打ちしたよ!」
ワーワーうるさいなぁ。仕方ない、もう少し下げておこう。後で文句を言われるのも面倒だし。
「わかったわかった、僕が勝ったら夕奈は僕が寝てる時に話しかけないで」
「ええ、それはやだなぁー」
「夕奈が勝ったら、僕のこと好きにしていいよ」
「よし、乗った!」
唯斗は、夕奈が単純な人間でよかったと心の中で嗤った。自分が勝てる可能性があると思い込んでいるところが滑稽だよね。
「夕奈ちゃん、今日から本気出しちゃうもんね!」
「へぇ、せいぜい頑張って」
「さては信じておらんな?夕奈ちゃんの意思は岩よりも―――――――――」
「夕奈、今日の夜って暇?みんなでビデ通しようよ」
「えっ!やるやるー!」
「……」
きっと夕奈の脳みそは豆腐なんだね。だから1秒前の自分の宣言すら忘れちゃうんだ。
唯斗はそう確信しながら、手招きする女子の方へ駆け寄っていく夕奈の背中をちらりと見た。
まあ、その方が僕にとって好都合だし、注意するつもりもないけどね。
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