第11話 おかしくなりそうだ

 来る日も来る日も、ボクと彼女は廃病院の病室の個室で愛し合っている。ボクはこんな毎日にちょっとだけ考えてみる。ボクは本当に何者なのだろう? それでは彼女も何者なのだろう? 彼女の甘い声。ボクの中で何かが崩れそうな感じだ。

「ねえ? 聞いて?」彼女の声。

「え? 何かな?」ボクはぼんやりしていた。

「このまま、二人でここに居ようね」彼女の笑顔。

 ボクの名前は宮坂田健一らしい。それに医者だったらしい、この廃病院の。ボクは何も思い出せないままだ。そのことにボクは恐怖を覚える。このまま、ずっとここに居ようねだって? ボクは汗が出てくる。

「恋とは 愛とは 退廃なものだ」

 おい。ボクだけに聞こえる優しい歌声が確実にボクの気をおかしくさせようとする。ボクは本当になんなんだ? ここにずっと居てよいのか? ここで彼女と快楽を貪ってよいのか? ボクは気がおかしくなりそうだ。ボクはこの廃村の中で朽ち果てるまで彼女と愛し合わなければならないのか? う、うわっ! どうしたらいいのだ!


続く

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