第10話 彼女について

 この廃村は廃墟ばかりだ。灰色と茶色ばかりだ。ちょっとこの廃村を二人でゆっくりと見て回る。うん、ちっとも面白くもない。空は真っ白だった。廃村はどこも森に囲まれている。その先には大きな魔物たち。

「恋とは 愛とは 退廃なものだ」

 まただ。ボクだけに聞こえる優しい歌声。けれども、ボクは廃病院で自分が医者だということを知った。ボクは何も思い出せないままだ。うーん、それでは彼女は元々何者なのだろう? 彼女について考えてみる。だが、恐らくこの廃村の住人だったとしか思えない。うーん。彼女も何も思い出せないらしい。

「健一さん? これからどうしたらいいんだろう?」

「さあね? 異形の人々を倒せたから、あとは助けがくるまで待つかな?」ボクはなんとなくそう言った。

 彼女は立ち止まって無言である。ボクは空を見上げる。うーん、これからどうしたらよいのだろう? この廃村からは脱出できないだろう。今となっては鏡に埋め込まれている十字架の意味も何もなかった。

「健一さん」

「うん?」

「えへへ、呼んだだけ」彼女は笑顔。

 本当に困った。今となっては廃病院のありがたみもない。彼女は本当に思い出せないのだろうか? 何かおかしいんだよね? けれども、まあ、いいか。


続く

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