ヤンキー人魚の恩返し 後編
冬美さんとの仲がグッと近くなった。
物理にしろメンタルにしろマジもんのカップル的距離感ってやつだろうか。
一緒に過ごす時間はより長く。交わす言葉はどんどん深く。
手渡し合う『心』と『心』は
えっ。
ヤダ――!
俺、冬美さんとラブラブじゃん!
めっちゃカップルしてるじゃん――!
火がでるっ!
顔から火がでる――っ!
「まーた変なこと考えてるだろハル」
両手で顔を
やんっ!
「『やん』って。ハル、お前最近ちょっとキモくなってないか?」
それもこれも、ア・ナ・タのせいなんだきゃらっ♪
「うわ――……」
ちょっと冬美さん!
引かない引かない。
マキでいかなきゃケツカッチンっスよ。
「何が」
2人の
「ワケわかんねー……よっ!」
ピシッ!
やんっ♡
ちょっと強めの
……あ!?
「どした?」
お、俺のお尻が2つに割れて……!?
「元からだろ」
そういや人魚さんのお尻の穴って……
「それ以上言ったら海に叩き込む」
きゃっ!
藻屑られる――ッ!
「……あのさぁ。マジで今日テンションおかしくね?」
スカジャンのポケットに両手を突っ込みながら片眉を吊り上げ
うん。
そんなお顔も素敵です。
「チャカすなよ」
まぁまぁ。今さら嘘も偽りも2人の間にゃありゃしませんよ。
「そんなの……いや、そーだけどさ。でもよ……」
色々一緒に食べてきたじゃないっスか。
「え?」
クリスマスにはチキンとケーキを。
「ああ」
年越しには
正月には餅と雑煮とおせち料理を。
節分には豆と恵方巻きを。
「食ってばっかだな」
Uber eatsフル活用で。
「チャリで配達してくれたニーチャン『浜辺とか場所分かりづれぇええ!』ってキレてたもんな」
ね!
「ね! って」
バレンタインには俺が買ってきたチョコレイトを一旦お渡ししてからツンデレセリフ付でプレゼントして頂きました。
「あんなマッチポンプをプレゼントって言えるハルのメンタルすげえよな」
とにかくそういう関係じゃないっスか。
「まぁ、そうだけどさ」
でがしょ?
Uber eatsとはもはや切っても切れない関係じゃないっスか!
「そっちか――い!」
ズッ、チャッ!
……っていうね。
新喜劇的オチも飛び出す
「サムイなー。さすがにこれは人魚ジョーク的にもサムイ」
ではセニョリータ。
アナタの
「あ?」
重ねた肌で温め合いませんか?
何もかも冬のせいにして。
「冬のせいっちゅーかハルのギャグセンスのせいなんだけど……あひっ!?」
俺は冬美さんを正面から思いっきり抱きしめる。
「バッ!? バカッ! やめろって……あぅ」
さらにギュッとする。
逃がさない。
「――――――っ!」
どうです?
温かいでしょう?
「あ、あ……アタタカヒ」
Pardon? (なんですって?)
「……あたた、かひ。……でふ」
顔を真っ赤にしながら冬美さんは俺の胸に顔を
「う――……はずい……」
……俺と冬美さんが出会ってから
冬が終る直前のまだまだ寒い時期だけど、ここを超えたらだんだん暖かくなってゆく。
この2ヶ月でお互い本当に色んな話をした。
冬美さんの生い立ち。
生まれ育った海域から逃げなければならず、そのときに仲間とはぐれたこと。
その理由が間接的にであれ人間のせいであったこと。
そもそも人魚たちは人間と関わらないように生きてきたこと。
住んでた海を追われてからはずっと1人で仲間を探し続けてきたこと。
俺もちょっとだけ今の仕事を辞めたいとかボッチで恋人イナイ歴=年齢の子ども部屋おじさん予備軍だとかそういう話をしたけど自分で言ってて冬美さんの身の上バナシとあんまりにも釣り合ってなくて泣けてきたので途中でやめた。
冬美さんは安直な励ましは口にせずただただ頭を
その他にもいっぱいいっぱい話をした。
中学生か! ってくらい。
喋り場か! ってくらいに。
とにかく――
楽しかったし嬉しかったし泣いたし怒ったし情けなかったし笑ったし走り出したし沈黙したしこっ
このまま2人で春を迎えられたらどんなにかいいのになーと思う。
思うんスよ……。
祈るように冬美さんを抱く俺。
そんな俺に彼女は声のトーンを落とし震える声で言うのだった。
「……あのさハル。アタシ、アンタに言わなきゃなんねーことがあるんだよ」
はい。
冬美さん、もうじき居なくなるんスよね?
「おまっ!? なんで……?」
ぎゅううううううううっ。
「あっ」
思わず離れようとした彼女を逃がさない。
力いっぱい優しく。
大切なものをこれ以上には大切にしようがないやり方で抱きしめる。
「……ハル」
分かってましたよ。
なんとなく。
この感じがずーっと続いていくなんてことが無いことぐらい分かっておりやした。
「……」
へへ。良いカンしてるっしょ?
努めて笑うが痛々しいか。
「んだよ……普段はヘラヘラしてるバカのクセに……」
2人で笑えば泣くよりマシか。
「ごめん」
謝んないで下さいよ。
これくらいでなきゃ冬美さんの
「ホントだよな。あ――……!」
冬美さんは盛大に鼻をすすり上げ俺の胸からガバッと顔を上げいつものハッキリとした調子に戻って言った。
「仲間の居場所が分かったんだ!」
◆◇◆◇◆◇◆◇
情報は最近になってここらへん近海を回遊してきた魚たちからもたらされたそうだ。
当然のごとくだが冬美さんは魚たちとも話ができるそうで。
回遊魚によると。
遥か南の海。
日本とは別の国の海域で。
集落を作って暮らしている人魚たちを見たという。
だから冬美さんは旅立たなきゃいけない。
……そういうことっスよね?
冬美さんはコクッとうなづいた。
「それとアタシ、ハルに嘘ついてた」
キスしたら恋人になるっていう掟?
「うん。それもお見通しか」
ってか考えたら分かりますよね。
順番逆だから。
キスは恋人になってからするもんでしょ。
「あはは。ホントだ」
俺が逃げちゃわないようにって
「察しが良すぎてコワイんだけど」
「
俺も同じっス。
いや冬美さんと比べたら全然だけど。
「だから仲間が生きてるって分かって嬉しい」
本当に良かったっス。
「でも今メッチャ迷ってる」
迷わないで下さいよ。
「迷うだろ! だって仲間の所に行ったら……もうハルには……」
それでも!
「……それでも?」
行きましょう。
仲間に会いに。
「ハルは……アタシにもう会えなくなってもいーのかよっ!」
良くないっス!
ゲキ凹みっス!
「じゃなんでだよ? なんでそんなこと言うんだよ!」
そんなん自分でも分かりませんっ!
「実は人魚が人間になる方法があるんだよ!
それをすればアタシは人間になってハルとずっと一緒に居られるんだ!」
そんなの……。
「知り合いのカッパに頼めば7つの尻子玉と交換条件に色々と改造とか妖術とかで望みを叶えてくれるんだよ!」
ここでカッパ出てくるのか!
しかも7つてドラゴンボールか!
「だからさっ!」
……。
「だからずっと一緒に……」
だからじゃなぁああああああああああああああああいっ!
「えっ!? ハル!?」
俺は叫んだ。
叫んで叫んで叫び倒しながら、冬美さんを抱き上げて2人一緒に海に飛び込んだ。
ザッパァアアアアアアア――ンッ。
何がしたかったのか?
そう聞かれても自分でも分からなかった。
とにかくどうにも衝動的だった。
冷たい海水に心臓がキュッとなりかけながらもとにかく暴れた。
もがいた。
水をかけ合った。
意味も分からずでもバカバカしくてバカバカしてくてとにかく2人で爆笑した。
もう一度抱き合った。
やがて自分が泳げないことを思い出して俺は溺れていった。
――5分後。
冬美さんに抱きかかえられながら2人で
太陽が海に沈んで急速に暗くなっていく。
チャプチャプという波音にかき消されぬよう俺は精一杯ハッキリとした声で冬美さんに言った。
仲間の皆さんに会いに行って下さい。
「ハル……」
それから。
仲間と会って。
もしそれでもまた俺に会いたいと思ってくれたら。
その時は改めて2人でカッパに会いに行きましょう。
尻子玉んボール7つ集めましょう!
体の向きを返して冬美さんと向かい合う。
俺待ってますから。
5年でも10年でも。
童貞のまんまで!
冬美さんを待ってますから!
泣きそうに悲しそうに怒ってそうにそして最後に笑顔になって冬美さんは答えた。
「……わかった。必ず帰ってくる。ハルのところに帰ってくるよ!」
ういっス!
「さんざんオゴって貰ったビールとタバコの恩返しもしなきゃなんねーしな」
いまさらそんな……んぐっ!?
冬美さんは俺にキスをした。
は。はぷ――っ。
目を丸くする俺の前で冬美さんはいつもの最高な笑顔を見せてくれる。
「……ニヒヒ。恩返しの前払い。ちょこっとだけ」
指で「ちょこっと」を表現しながら冬美さんはそう言った。
ファースト・キスはレモン味と言うけどそれって要するに「嬉し恥ずかし甘酸っぱいっ!」てなことなんだろうけど。
果たして俺のファースト・キスは
――fin――
ヤンキー人魚の恩返し 第八のコジカ @daihachi-no-kojika
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