ヤンキー人魚の恩返し 中編
キミョウキテレツマジイミフ、な出会いから1週間。
あれから毎日、俺はビールとタバコを持って夕暮れの浜辺に通っているのだった。
暗くなり始めた浜辺で赤いスカジャンの前を大胆にはだけさせ、その巨乳を惜し気もなくブルンブルンさせた
「おーす、ハルー!」
チィッス!
人魚センパイチィッス!
「よ、オツカレ」
おビールとおタバコお持ちしぁしたっス!
「サンキュー。いつもワリーな」
お辞儀姿勢のまま頭の先に差し出した缶ビールを受け取ったセンパイは言うが早いかプシュッといわせて一気にあおった。
「カッハァアアア――ッ! うめぇえええええええ――っ! もう1本っ!」
ハイっス!
立て続けに500ml缶2本空にして丁寧にアルミをペチャンコにしつつ慣れた手付きでタバコのセロファンをピピッと
口に
「フスゥ――――ッ……生きてる価値あるぜー」
タバコの煙が風にのって流れていく。
冬の夕陽をバックにタバコをふかす巨乳ヤンキー人魚。
思う様シュールな絵面だ。
だが
ヨイショあるのみであびゅ!
噛んだ。
のみである!
「んだよ。アタシの顔になんかついてるか?」
いえ! 今日もバリバリっスね!
ビッとしててお美しいっス!
「よせやい。おだてたって何もでねーぞ」
そのハニカミの笑顔も最高っス!
なんつうかその自分頭悪いんで上手く言えませんがDQN! じゃなくてズキュン! って感じです!
「うっせ。バーカ。……でも、あんがと」
モジモジと顔を赤らめながらチラッとこっちを見つつ足元っていうか
テンプレか。
だが……それが良い!
実はこの1週間、ってか2日目くらいで俺はあることを確信して把握して活用していた。
「こんな風に笑顔見せんの、ハルの前だけだかんな。あ、ありがたく思えよな」
そう。この人魚センパイ、まさかの『ツンデレチョロイン』だったのだ。
「なにニヤニヤしてんだよキモチわりぃーな」
サーセン!
余りのお美しさに見とれてやしたっス!
「バ、バカッ! もうやめろよそういうの。勘違いしちまうだろっ」
ラノベか。
そんでもってハゼか。
巣穴掘る気か。
チョロインにも程があるわ。
「おいハル。お前いまなんかシツレーなこと考えてね?」
イエイエイエイエ!
いつだって俺は人魚センパイマジリスペクトっスから!
「だったらいーけどよ……」
ってな風に。
毎日ここに通ってビールとタバコを渡して日が暮れるまでチョロイン育成に注力してるって感じで。
ハタから見たら何やってんの? って思われるだろうが、何ってアレだよ、おっぱい拝みに来てんだよアリーナ席で! って胸張って言うわ。
それくらいの価値があるよ人魚センパイの巨乳は。ビール2缶、タバコ1箱、1
礼っ礼っ!
パンパン。
もひとつ礼っ!
ニ礼二拍一礼も飛び出す信心深さよ
「拝むな拝むな。清々しい程のゲスさだなハルは」
お褒め頂き恐縮っス!
「ドン引きも3回転くらいしたらちょっと
その
「ドン引き4回転目いったわ」
ですよね!
サーセン!
「しゃ、写真とかじゃなくさ……直接見に来りゃいーじゃん」
えふっ!?
「こここ、恋人なんだからさ、ココに来て見るぐらいは別にいーから。減るもんじゃねーし」
oh……! (感嘆)
Unbelievable! (信じられない)
Please say it again. (もっかい言ってどうぞ)
「なんで英語なんだよ」
プリィイイイイイイイイズッ!!
「だ、だぁら! そんなに見たきゃ、直接ココで見りゃ良いじゃん!」
デレ成分んんんんっ!
俺が人魚センパイの分泌した過剰なデレ成分に
「じゃーさ、俺たちにもじっくり見せてくれよネーちゃん」
「あ?」
出し抜けに後ろから悪い声がした。
でもってゲラゲラと悪い笑い。
ザッザッザッと砂を蹴る複数の悪い足音。
思う様悪い、まるで絵に描いたようなチンピラ3人組。
まさかの「からまれ」イベント発生なう!
「んだ? テメーら、アアンッ!?」
即座に臨戦態勢をとる人魚センパイ。
寄せた眉根と突き出した下唇が
「兄貴ぃ、この
「コスプレじゃねーよ」
っすよね。
モノホンすもんね。
「ツレのニーチャンの趣味かぁ? 彼女良い
「ジロジロ見てんじゃねーぞこの変態が!
引きちぎんぞ!? 」
引きちぎるんスか!
「おうおうおう! こんな寒い季節に浜辺で人魚コスプレデートたぁニュータイプなプレイスタイルの追及ですか、おい? 俺らも混ぜて欲しいねぇ~」
「「「ぐえっへへへへへへへ」」」
……すげえっ!
レアモンスターキタ――!
絶滅危惧種のチンピラじゃん!
昭和のマンガでしか見たことない奴じゃん!
「おいニーチャン。ちょっとジャンプしてみろよ」
ポケットの小銭まで的確に狙いにきてんじゃん!
すげえすげえすげえ!
こんなマンガみたいなイベントがリアルの俺の身に起こるなんてマジ信じらんねー!
でもって当然だけどやっぱ知らないチンピラに
「んだよ? ビビってんのか?」
ハイ!
思う様ビビってます!
「だらしねぇ野郎だぜ」
ドンッ!
あひっ!
チンピラBに軽く肩を小突かれただけで俺は変な声を出しながら尻餅をついてしまった。
情けない。
……で、でもしょうがないよねっ! ケンカとかしたことないし。俺ラノベ主人公違うし! 痛いのマジやだし! あははははは……はは……。
「なんだコイツ?」
俺は尻餅をついたまま涙目でうすら笑っていた。そんな俺を上から覗き込むようにしてチンピラBは追い討ちをかける。
「金玉ついてんのか? テメェ。ヘラヘラ笑ってキモチわりぃ野郎……」
バァッチィイイイイン!
「ウベブロァッ!?」
ヒュン!
ザパァアンッ!
すげぇ破裂音が響いたと思った次の瞬間、チンピラBが海に叩き込まれていた。
へ? と顔を上げれば、それは我らがヒーローいやヒロイン。
人魚センパイの
途端に色めき立つチンピラAとC。
「テメェこのズベ公!」
「兄弟になにしてくれちゃんてんだおい?」
左右から挟み込んでくるチンピラ。
「うるせーよ」
でも人魚センパイは焦らない。
「アアンッ?」
「
「うるせえってんだよ」
「女だからって容赦し……」
「うるせぇええええええっ!」
ザッ……パァアアアアンッ!
目にも止まらぬ
チンピラA、C同時に海の藻屑と化す。
「……ったく。ショーモネー連中だぜ。なーハル」
ファッサァと茶髪をかき上げ人魚センパイがこっちを見てニヒヒと笑う。
沈んでいく夕陽がその最後の光の一射しで人魚センパイを
か、かっこいい……。
「ほら」
差し伸べられる手。
掴む。
引き起こされる。
偶然なのか『わざと』なのか。
俺の顔がセンパイの胸に
むぐっ!?
「気にすんなよ、ハル」
人魚センパイは。
いや冬美さんは。
優しくて温かくて柔らかかった(!)。
俺は恐る恐る彼女の背中に両手を回した。
拒まれなかった。
むしろギュッとしてくれた。
だから俺もギュッてした!
ちょっとだけ
「いい子いい子。ハルはいい子だぞ」
頭を20年ぶりくらいに
そのまま冬美さんと俺は日がすっかり落ちるまでそうしていた。
俺は多分、泣いてはいなかった……と思う。
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