内臓の記憶

@fukutyma

第1話 

内臓には記憶が宿るという。

提供された内臓が移植された人間に

少しの記憶を。または癖や、好みを共有するそう言った事例があがってきている。移植手術後に知らないはずの歌を口ずさんだり、行った事のない場所の風景を思い出したり。科学的には未だ判明されてはいないのだが。


『タカフミ、内臓には記憶が宿るんだって。今日聞いたの』

『脳じゃなくて?』

『そう。不思議だね』

『それは困るね。いろんなとこに記憶があったら、ケガした時になんか支障がある』

『そうかな?』

『違う?』

『私の記憶を宿して、他の人が生きていてくれるなら少し嬉しいけどな』

『俺の記憶は、俺の中だけで生きていればいい。他の誰にも見せることは無い』


口数も少なくSNSや、日記などを付けることもない彼はそうなんだろうな。と思った。過去にあまり興味が無い。彼は壁を作る。人に自分を見せない。


『でも、私の想いが伝えられたならいいのに』

『伝えたいなら言葉で言えばいいだろ』

『…そうだね』


伝えられたならどんなにいいだろう。

何も考えずに、囚われることもなく素直に言えたなら。

ずっと一緒にいたい。これが私の想い。

ずっと。私の残り時間は少ない。


『どーしたの?』


ベランダで振り向いた彼が煙草を吸っている。

タバコを片手に持つ仕草が忘れられない。指が長く煙草を持つ手がとても美しくて目を離すことができない。ふとした時に思い出しやすいのは香りだという。私にとってそれは彼のタバコと香水だろう。キスをした時のタバコの匂いと彼の付ける香水。


『あぁ…煙草臭かった?煙い?』

『…ううん。平気だよ』

『すぐ吸い終わるから』

『いいよ、ゆっくりで。』


ずっと見ていたい。この姿を焼き付けていたい。

彼には私の何が残るんだろう。

美しい姿なんて無い。慌ててばかりで変な事ばかりして、口に出せばいいのにうまく伝えられなくて。涙が出そうだ。


でも泣かないって決めたの。

笑顔を遺して欲しい。貴方の記憶の中には。

少しでも笑顔の私を多く残していて。ずっと大好きだよ。タカフミ。



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