第9話 バクダン
零菜と付き合ってから一ヶ月くらいが経った。
零菜は一ヶ月記念のデートに行きたがり、僕達は少し離れた公園に行くことにした。その公園では冬の花火が見られることで有名で、零菜の運転で行くことになった。
車でも結構時間が掛かる距離だったが、別に苦では無かった。僕も零菜も最初の頃の緊張はもう、なくなっていた。
「運転させて悪いな」
「ううん! ウチ運転好きだから!」
「後で何かお礼するわ」
「じゃあ悠翔君のこといっぱい教えて!」
そこから目的地に着くまで話は止まらなかった。好きな食べ物、苦手なもの、曲、色、服、遊び、言葉、お笑い芸人、テレビ、キャラクター、動物、場所、物、何でも聞かれた。
零菜は紅茶が好きで、僕はあまり好きではないと言ったら声のトーンが下がり、悲しんでいるようだった。
逆に共通な物が見つかると、嬉しそうに体を揺らしていた。
僕は、全部正直に答えた。答えてしまった。
「悠翔君はどんな子が好き?」
「え? んー、強いて言えば女の子っぽい子かな?」
「例えば?」
「髪が長いとか、女子力高いというか、まあそんなだけど」
「そうなんだ!」
「でも、零菜がそれに近づこうとしなくていいからね? そのまんまでいてくれ」
「ありがと! 今度お菓子作ってあげるね!」
「嬉しいけど、無理しなくていいからな」
「……じゃあさ、悠翔君はどんな彼女が理想?」
「さっきと何か違うのか?」
「ウチにどんな彼女になって欲しいのかなって」
「何もしなくていいよ。そばに居てくれるだけで俺は満足しちゃうかな」
「そうなんだ」
目的地につき、僕達は車を降りた。花火までまだ時間があったので僕達は公園を散歩してみることにした。
空は雲に覆われてしまっていて、気温は低く風が肌に刺さるような寒さだった。
「今日雨降ったら花火中止かな?」
「え、やだ! ウチ晴れ女だから絶対大丈夫!」
「期待してるわ」
「それにしても今日寒いね。ほら、手こんなに冷たくなっちゃった? 触る?」
零菜は手のひらを僕に見せるように前に出した。
「いや大丈夫」
「最低!」
「ごめん、どういうこと?」
「あ、あっちでアイス売ってる! 買ってくるね!」
零菜は僕を置いてアイスの看板がたった建物の中に走って行ってしまったのですぐに後を追った。
零菜は既に水色のアイスクリームを買っていて、笑顔で食べながら帰ってきた。
「問題です! これは何味でしょうか!? 当てたら許してあげる」
「アイス好きなんだろ? 全部食っていいよ」
「ヤダー! 悠翔君も食べてよ!」
「分かったからとりあえず座ろうぜ……」
僕達は近くにあった二人用のベンチに座った。目の前に大きなクリスマスツリーが飾られていた。
こんな寒い日にアイスを食べるのも気が引けだが僕は食べる事にした。匂いは特にしないが、一体この水色のアイスは何味なのだろうか。僕は不安を抱きながら一口食べた。
「どう?」
「……ラムネ?」
「ブー! 正解はヨーグルトでした!」
「言われてみればそんな気がする」
「えへへ! 私の勝ちー! 私の勝ちー!」
零菜は足をブラブラさせ喜びながらアイスを食べた。
「ねぇ見て! クリスマスツリーだよ!」
「でっかいね」
「写真撮って! それで後で送っといて!」
「あいよ」
パシャ…………パシャ……
「今二回撮らなかった?」
「……気のせいじゃね?」
「ちょっと見せて!」
零菜は僕からスマホを奪い写真を確認した。
「何でウチがアイス食べてるとこ撮ってるの!」
「いや、何となく」
「どーせなら可愛いとこ撮ってよ!」
「アイス食べてるの可愛いよ」
「ウチが嫌なの! もう勝手に撮っちゃダメだよ!」
「へいへーい」
信用出来ないと中々引き下がらない零菜だったが、僕のスマホのロックを零菜も解除できるように指紋を登録することで零菜は納得してくれた。
そんなこんなしている内に時間はあっという間に過ぎ、花火の時間はもうすぐになっていた。
僕達が建物から出ると、外は人混みで溢れていた。人の多さに圧倒されながら、僕達は何とか場所の確保に成功した。
既に日は落ち、空は暗く雲が出ているのかも分からないほどになっていた。そのため、寒さは来た時よりも酷くなっていた。
「寒いー」
零菜は寒さに耐えるため、どんどん丸くなっていた。最終的にはコートから顔だけが出ていた。
「これ貸してあげる」
僕は自分がしていたマフラーを零菜に巻いた。顔だけ寒そうで見ていられなかった。
「いいの? 悠翔君寒いでしょ?」
「俺は大丈夫」
「じゃあ、ウチがあっためてあげる」
そういうと零菜は僕にピッタリとくっついて左腕にしがみついた。
「暖かいでしょ?」
「うん」
「大変お待たせ致しました。これから花火大会を始めさせていただきます! それでは皆様カウントダウンをお願いします!」
カウントダウンが行われ、軽快な音楽と共に花火は打ち上がった。
冬に空に打ち上がった花火は何とも神秘的で、真っ暗なスクリーンに照らし出された映画のような迫力だった。寒さも何もかも消し飛ばすような綺麗な爆弾だ。
「悠翔君見て見て! すっごいよ!」
「な! 超綺麗!」
「今日来れて良かった!」
「なぁ、そういえばさっきのことなんだけどさ、違ったら悪いんだけど……」
「え? ごめん花火で聞こえない!」
「嫌だったら言えよな!」
僕は強引に零菜の右手を掴んだ。零菜は僕の顔を二度見くらいした。そして、人差し指だけど握るようにしてまた空を見上げた。
零菜は車に乗るまでその手を離しはしなかった。
帰りは花火の感想とかを言い合っていたらあっという間だった。
「今日はありがと。ホント楽しかったよ」
「ウチも!」
「気をつけて帰ってね」
「うん! …………悠翔君にお願いがあります」
「何?」
「ウチの事、ぎゅーってしてくれない?」
「……いいよ。おいで」
零菜は僕に思いっきり飛びついて来た。零菜の匂いなのか香水なのか分からなかったが甘い匂いがした。
「うん、満足」
「それはよかった」
「じゃあね」
「うん」
このデートを最後に、僕は零菜に振られた。
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